22 カリスマ
「マリナ様。公爵令嬢リリアンヌ様は、そのカリスマ性ゆえか熱狂的な支持者がいます」
「支持者? そういえば、あのフィオーレとかいう茶髪の侍女もリリアンヌの意見に賛同していたわね」
「私には良く分かりませんが……。リリアンヌ様に心酔している者は、公爵令嬢の為なら命も投げ出す者までいるとか」
「えっ! 命を!?」
にわかには信じられなくて唖然としているとロゼッタは眉をひそめ、神妙な面持ちで頷いた。
「実際、公爵令嬢リリアンヌ様の周囲で不審な死を遂げた者が複数いるのです」
「死者まで出てるなんて殺人ってことなんじゃないの? リリアンヌか取り巻きが『不審な死』に関わったってこと?」
「リリアンヌ様が直接、関与したという証拠はありません……。だからこそ第二王子、レナード殿下の婚約者になっているのです。ですが、これまで公爵令嬢リリアンヌ様にとって邪魔な存在が、次々と命を落としているというのも事実なのです」
「そんなことが……」
「公爵令嬢リリアンヌ様は、あの通り平民を嫌っていますし。くれぐれも、不用意に近づいたりなさらないで下さいね」
「分かったわ」
私としてもあの高慢な公爵令嬢に直接、関わりたいとも思わなかったし、まして関係者が死亡していると聞いてまで安易に介入する気にはなれるはずもない。心配するプラチナブロンドの侍女に同意して、私は深く頷いた。
その後、私は魔術師グラウクスさんから借りた本を開き、この世界で使われている文字についてロゼッタから学び、文字を覚えた次は単語のスペル。ある程度、単語を把握すると次は文法を教えて貰うという日々を過ごした。
「それにしてもマリナ様は覚えが早いですね。さすがです」
「ははは。ありがとう。まさか、異世界に来てまで勉強することになるとは思ってなかったけどね」
獣医師免許を取った時、ようやく試験勉強から解放されたと思って肩の荷が下りたと思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかったようだ。苦笑いしながら本のページをめくり、羽ペンに黒色インクをつけてこの世界の文字を紙に書きつづる。何度も練習し、今やよどみなく書けるようになった。
この世界で使用されている文字を覚えたおかげで、三面鏡ドレッサーに何気なく置かれているガラスの小瓶に入っている複数種類の液体が何なのか今まで読めなかったが、貼られているラベルの文字が読めるようになったおかげでハーブ由来の化粧水や香水であるということも解読できるようになってきた。
「もう文法も把握して自力で本を読むこともできますし、そろそろグラウクス様に経過を報告して魔法の指導をして頂きましょう」
「うん。それは良いんだけど……」
「何か気になることでも?」




