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17 茶髪の侍女、フィオーレ

 落雷被害の可能性を考えているならロゼッタが慌てて、この場所を立ち去りたい気持ちも理解できる。しかし、雨も降ってないのに、やはり妙だと小首を傾げていると庭園から離れて完全に建物の内部に入り、窓のある廊下にさしかかったところでプラチナブロンドの侍女はようやく、歩く速度をゆるめて私の方を振り返る。


「すいません。マリナ様、急に早足になってしまって」


「ううん。別に構わないけど……。それより客室に戻ったら早速、文字の勉強をしたいから教えてもらえるかしら?」


「はい。もちろんです」


 にっこりとロゼッタが笑顔で答えてくれた時だった。通路の角から先ほど公爵令嬢リリアンヌから白ユリを受け取っていた侍女らしき女性が現れた。


「ごきげんよう。こんなところで会うなんて奇遇ね。ロゼッタ」


「フィオーレ……」


 茶髪の女性は親しげに声をかけ、薄い唇を三日月型にして笑みを浮かべているがロゼッタの方は浮かない顔である。もしかして、あまり仲が良くないのかなと思っていると茶髪の女性フィオーレは、私の方に視線を向けてきた。


「そちらの御方はどなたかしら? 見慣れない顔だけど?」


「こちらは第一王子、ディルク殿下のお客様です」


「あ、マリナです」


 ロゼッタに紹介される形となり、私は軽く頭を下げて挨拶した。すると茶髪の女性はまるで、うさんくさい物でも見るかのような白い目で私を見据えた。


「ふぅん……。ところで貴方、さきほど『文字の勉強をしたいから教えてもらえるかしら?』と言っていたようだけど、本当に文字が分からないの?」


「え、はい。そうですけど……」


「失礼ですけど貴方、身分は?」


「身分?」


 とっさに小首を傾げた私を見たフィオーレは、実に嫌そうに鼻にシワを寄せた。


「第一王子のお客様が王侯貴族じゃないなんて、ありえないわよね?」


「いえ、王侯貴族じゃないですが」


「まさか……。平民なの!?」


「まぁ、そうなりますね」


 私のいた世界ではむしろ王侯貴族と言われる身分の人が圧倒的に少なく、大多数がいわゆる一般庶民で平民ということになる。もちろん私も一般庶民の一人だ。尋ねられたので頷けば、フィオーレという茶髪の女性は呆れた様子で顔をしかめる。


「やっぱり! 文字が書けないって言うから、まさかと思ったけど……。なんで平民がディルク殿下のお客様なの!?」


「フィオーレ……。マリナ様は事情があって、こちらに来られたのです。失礼な言葉や余計な詮索は慎んで下さい」


「まぁ、良いわ。この件は公爵令嬢リリアンヌ様に報告させて頂くから!」


 茶髪のフィオーレという女性は不快感を隠そうともせず、私を一瞥したあと顔を歪めながら立ち去った。

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