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12 魔術師の部屋

 朝食を頂いた後はロゼッタに先導されて白石造りの螺旋階段を登り、長い廊下を歩いて、黒縁眼鏡の魔術師グラウクスさんがいる『魔術師の部屋』に案内された。


 部屋の壁際には天井に届くほどの高さがある本棚に、如何にも古そうな書物が整然と並べられ天井からは金属製の無骨な照明器具が吊されている。


 半円アーチの窓から光が差し込む室内を見渡すと木製の執務机には複数の本や謎の小箱や装置、色とりどりの液体が入ったクリスタルガラスの小瓶、水晶玉や輝石が無造作に置かれている。その執務室の椅子に眼鏡の魔術師は座り、痛みの激しい古書の薄茶色いページをめくっていた。


「グラウクス様。マリナ様をお連れしました」


「おや、ごきげんようロゼッタ。そして聖女様、ご足労頂きありがとうございます。こちらの世界には慣れましたか?」


「ロゼッタが何かと気にかけてくれるので不自由はありませんが……。とりあえず『聖女』という呼び方はやめて頂けないでしょうか? 私には(ひじり)真理奈という名前がありますので」


 長髪の魔術師は眼鏡の奥で鳶色の瞳をやや開いた後、やんわりと微笑した。


「これは失礼いたしました。それでは『マリナさん』とお呼びした方がよろしいでしょうか?」


「はい。それでお願いします」


「では改めてよろしく、マリナさん。昨日も名乗りましたが、私は魔術師グラウクスと申します。今後はマリナさんに魔法の指導をいたしますので、一緒にがんばりましょう」


 魔術師は長い茶髪を揺らして穏やかに微笑んだが、私にはどうしても一つ気にかかることがあった。


「あの。昨晩、こちらに来た時に『聖女として役に立ったら、第一王子の妃にしてやる』って言われましたけど……」


「ええ。ディルク王子はそのように話していましたね」


「私、元の世界に結婚を約束した相手がいるんです……。王子なのか知りませんが突然、こんな所に呼ばれて見ず知らずの人から『妃にしてやる』と言われても困ります」


「なるほど……。マリナさんの事情は分かりました。それならば、なおさら元の世界に戻りたい訳ですよね?」


「はい。それはもちろん戻りたいです!」


 声を強めて頷けば、長髪の魔術師は執務机の上に置かれている透明な水晶玉に触れながら、遠い目で窓の外に視線を向けた。


「それならば現在、第一王子の手中にある『禁書』が絶対に必要です」


「禁書……」


「ですが第一王子の不興を買えば『禁書』の貸し出しを許されず、マリナさんが元の世界に戻ることが出来なくなるかも知れません」


「そんな……」


 元の世界に戻れなくなるなどと聞いて絶望的な気持ちになる。祖父の葬式の後に突然、私が失踪してしまって両親や親戚、それに交際をはじめたばかりの高野悠真くんだって、きっと行方不明になった私の安否を心配しているに違いない。みんなのことを思うと涙が込み上げそうになり視界が潤んだ。


 そんな私の様子を見た黒縁眼鏡の魔術師はパン! と自身の両手を一叩きした。眼前で突然、大きな音を立てられて驚き、私の涙は引っ込んでしまった。目を丸くしている私に長髪の魔術師グラウクスさんは、とても良い笑顔を浮かべた。


「ひとまず、魔法を習得しましょう!」


「魔法、ですか?」


「はい。第一王子の件は抜きにしても、魔法を覚えておいて損はありません! 何かと役立ちますよ」

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