表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で竜になりまして  作者: 猫正宗
第四章(終章) 王都決戦
38/39

22 頭がフットーしそうだよぉっっ!

 黒竜の落下したあたりに、女の人が倒れていた。


 艶めく長い黒髪を乱している。

 たしかシメイの記憶によると、このひとはイネディットさんだったっけ?


 このひとが本物の魔女なのかぁ。

 村で散々に間違われたことを思い出す。


「……ん、……んん……」


 女性が上体を起こした。

 綺麗なひとだなぁ、って――


「ぐるぉ!?(はぇえ!?)」


 このひと裸だ!?

 ろ、露出狂か!?


「ぎゅ、ぎゅりえ……(はわ、はわわわわ……)」


 目のやり場に困る。

 あわあわしていると、シメイが彼女に歩み寄った。

 マントを脱いで、投げかける。


(……ふ、ふぃー)


 これでひと安心である。

 気が抜けてから気付いた。

 そういえばわたしも、そろそろ限界だったのだ。


(えっと……。なにか体を隠せるものは……)


 キョロキョロと辺りを見回す。

 お、いいものがあったぞ。


 落ちていた旗を拾って、岩陰に隠れる。

 竜化を解いてそれを体に巻きつけた。


 ぃよし。

 これでオッケーだ。

 急いで戻ってきてから、わたしはシメイの腕にぎゅっと抱きついた。




「……余は……負けたのだな……」

「ああ。お前の負けだ」


 イネディットさんは落ち着いていた。


「貴様は……。あの時の若き竜騎士か……」


 頷いてから、シメイが手を伸ばした。


「イネディットよ。この手を取れ。和睦を……。それがここに集った王国騎士たち、すべての願いだ」


 けれども彼女は、ゆるゆるとかぶりを振った。

 その顔には諦念が浮かんでいる。


「今更なにを……。王国とオイネは共存できぬ。どちらかが滅ぶまで戦うしかないのだ……」


 悲しげにまつ毛を伏せる。

 戦っている間に伝わってきた想い……。

 このひとの心は、未だに憎しみに囚われているのだろうか。


「……そんなことはない!」


 叫んだのは、金ピカの騎士さまだ。

 シメイが少し驚いた顔をしている。


 騎士さまが歩み出てきた。


「僕の名前はキルケニー・ビーミッシュ。こう見えて公爵家のものだ。……美しき女王よ。聞いてほしい!」


 騎士さまは熱のこもった視線で、イネディットさんを見ている。


 ……ははぁん。

 もしかして、このひと……惚れたな?


「僕はこの家名に誓おう。必ずや両国が手を取り合える未来を、築いてみせる!」


 彼のあとに続いて、何人もの騎士さまが歩み出てきた。

 空からは竜騎士さまも降りてくる。


「……俺もだ! 両国に平和を!」

「和平を! 私はオイネとの和平を望む!」

「これ以上の争いなど、必要ない!」


 騎士たちは口々に思いの丈を伝えはじめた。

 ど、どうしたんだろう。

 皆さん熱っぽ過ぎて、ノリについていけない。


「ほら、みんなもこう言っている! 黄金騎士団には上級貴族も多いんだ。僕たちが絶対に……、必ず王国を変えてみせるから……!」


 イネディットさんが戸惑い始めた。

 きっと見つめられて照れているんだろう。

 でもわかるー。

 わたしのタイプじゃないけど、この優男の騎士さんも、かなりのイケメンだもんね!


 困惑する彼女に、シメイが最後の後押しをする。


「魔女……いや、女王イネディットよ。この手を取るんだ。……共に歩もう」


 彼女がふっと笑った。

 肩の荷を下ろしたのだろうか。

 見上げたその表情は、晴れやかだ。


「余にも……、余にも、開祖オイネの想いは伝わっていた。その想いが、願いが、……もしも叶うのであれば……」


 彼女がそっと手を伸ばした。

 シメイがその手を取る。


 ちょ、ちょっと手を握りすぎじゃない?

 わたしは嫉妬でちょっとムッとする。

 彼が勢いよく、繋いだ手を引き上げた。


(――はわぁ!?)


 な、なにしてるの!?

 そのままイネディットさんが、彼の胸に収まりそうになっている。


「おおっと! すみませんねぇ!」


 わたしはすかさず体を差し込んで、それをブロックした。


 ぃよし!

 ガード成功だ!


 彼がきょとんとした顔で、わたしを見てきた。

 それを睨んでやる。

 少しおかんむりなのだ。


 シメイったらまったく!

 プ、ププ、プロポーズまでした彼女の前で、ほかの女のひとを抱きとめようだなんて!

 これはあとでお説教である。




 イネディットさんは、空に浮いて去っていった。

 なんでもオイネの進軍を止めに行くらしい。

 彼女は去り際に、わたしを見て呟いた。


『黒髪黒瞳の迷い人か……。探していた其方に、余の侵攻が阻まれることになろうとはな……』


 なにを言ってるのか、よくわからない。


 でもイネディットさんは、わたしに用があるらしく、また会いたいとのことだったので、うろのお家の場所を教えておいた。


 お家のある大樹は目立つから、きっと迷わずに来られるだろう。




「……アサヒー! ほんっと、あんたは!」


 コロナが飛びついてきた。


「ご、ごめんね、コロナ!」

「心配かけて! バッカじゃないの!」


 続いて、騎士のみなさんが寄ってきた。

 シメイとわたしを取り囲む。


「団長! すごい戦いでした!」

「まさか白竜を、己が騎竜にしてしまうとは……」

「ところで……あの白竜はどこに?」


 わいわいと騒ぎ始めた。

 どのひともぼろぼろだけど、皆さんいい笑顔だ。


 輪のなかから、ひとりの騎士さまが前にでた。

 さっきイネディットさんを、熱い視線で見つめていた彼だ。


「ああ、そうだ。紹介しようアサヒ。こいつはキルケニー……」


 なんでも金ピカの彼は、シメイの親友らしい。

 といってもふたりは全然タイプが違う。


 でもこういうのって、案外そのほうが馬が合うものなのかもしれない。

 だってわたしとコロナも、親友なのにタイプ違うしね。


「ところでシメイ……」


 キルケニーさんがニヤニヤしている。


「僕にはそっちのお嬢さんを、紹介してくれないのかい?」

「ああ。紹介しよう……」


 彼の逞ましい腕が、腰に回された。

 そのままグイッと引き寄せられる。


「ちょ、ちょっとシメイ――」

「こいつの名前はアサヒ。皆が先程みた白竜は、こいつが変じたもので……そして、俺が、妻に娶る女だ」

「――ひゃわぁ!?」


 な、なな、なぁ……!?

 つ、つつ、妻に娶る!?


 た、たしかに!

 たしかに……プロポーズはさっき受けたけど!

 まだ返事もしていないのに!

 頭がフットーしそうだよぉっっ!


「はわ、はわわわ……。アサヒが、伯爵夫人……」


 直ぐそばでコロナが呟く。

 彼女も顔を真っ赤にして、目を回していた。


「……あは、あはははは! いいねぇ! いいじゃないかシメイ! あはははは!」


 キルケニーさんは凄く愉快そうだ。

 というか笑いすぎじゃない?

 目尻に浮かんだ涙を、指で拭っている。


「……俺は、本気だ」

「わかってる! わかってるってシメイ! でもその子は白竜なのかもしれないけど、貴族じゃないんだろう? 身分差はどうするんだい?」

「ぬぅ……。それは……」


 シメイが眉を顰めた。

 対称的に、キルケニーさんはニコニコ笑顔だ。


「僕にいい考えがあるよ? 聞いてみる?」

「……なんだ? 言ってみろ」


 金色の彼はコホンと咳払いをする。


「それはねぇ……」


 もったいぶって言葉を区切った。


「はやく言え」

「……それはだねぇ。聖教会の連中を担ぎ出すのさ! なんたって、竜伝承の『救いをもたらす白き竜』だ! きっと連中ってば、聖女さまだって持ち上げてくれるよ!」


 は、はぅえ!?

 わ、わたしが聖女さま!?


 なにを言ってるんだこのひと。

 頭は大丈夫だろうか?


「……ほう。それなら釣り合うな」


 シメイがアゴに指を添えて考え込んでいる。

 ……って、「ほう」じゃないでしょ!


「な、なんの話なんですか、キルケニーさん!」


 辺りの騎士たちも「聖女……。聖女だ……」と口にしながらざわめきだした。

 なんなの、このひとたち!


「あはは! これからよろしくね、聖女さま? あはははは!」


 大空に、彼の楽しげな笑い声が響き渡った。


次で最終話になります。

21時頃の投稿を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ