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異世界で竜になりまして  作者: 猫正宗
第ニ章 竜と竜騎士
15/39

11 鎧の下は、筋肉質でした。

 意識を失った男のひとを、うろのお家まで運んできた。


 ベッドに寝かせて様子をみる。

 その男性は「はぁ、はぁ」と荒い息をしたままだ。


「ど、どうしよう……」


 額に手を当てると、凄い熱だった。

 これ、大丈夫なんだろうか。

 慣れない状況におろおろしてしまう。


「ど、どうすれば……。あっ……」


 そうだ。

 たしか、このひとの荷物があったわね。

 あのバッグのなかに、薬はないかな?


 外に出る。

 そこには彼と一緒に連れてきた、傷付いたワイバーンがいた。

 背中に装着された鞍には、彼の荷物と思わしきバッグが取り付けられている。


「うーん。薬はないなぁ……」


 ガサゴソと漁ってみるけれども、バッグには簡単な携帯食料と、手拭いくらいしか入っていなかった。


「ギュァ……」


 竜がわたしを見て、弱々しく鳴いた。

 彼のこともそうだけど、この子のことも介抱してあげないと。


「ちょっと待っててね」


 家の貯蔵庫から数匹、取り置きしていた魚を持ってくる。


「ほら。お食べ」

「ギュァア!」


 ワイバーンは凄い勢いで与えた魚を食べ始めた。

 大きな口には不釣り合いなほど小さな川魚を、パクッと咥えては丸のみにしていく。


「ギュァ、ギュァア!」


 これは『もっと頂戴』と、催促されているのかな?

 多分そうよね。


「ごめんね。もうないのよ。でもあとで、たくさん獲ってきてあげるから!」


 こっちの子も酷い怪我だけど、これだけ食欲があるならきっと大丈夫だろう。

 竜の生命力に感心してしまう。


「ともかくいまは、あの男のひとね……」


 看病のためベッドに戻った。




 青髮の男性は豪奢な鎧を着込んでいた。

 でも脇の隙間から、血の跡がみえる。


 これは怪我をしているに違いない。

 発熱はそこからくるものだろうか。


「傷口を清潔にしなきゃ」


 化膿したり、破傷風にでもなったら目も当てられない。

 ちゃっちゃと体を拭いてしまおう。


「ちょーっと、失礼しますよぉー」


 大きな体をゴロンとひっくり返した。

 なんとか鎧を脱がせようと試みる。

 でもこれって、どうやって脱がせればいいんだろう。


 カチャッと音が鳴って、蝶番(ちょうつがい)が外れる。

 あれこれ試行錯誤しながら、ようやく鎧を脱がせることが出来た。


 血が染み込んだインナーシャツも脱がせる。

 固まった血が肌に貼りついて、ベリベリとなった。

 痛そうで、思わずわたしのほうが顔を顰めてしまう。


「…………ぅ、……ぅう」


 うぇ!?

 いまのは!?


「あ、ごご、ごめんなさい!」


 もしかして気が付いた!?

 なんとなく反射的に謝ってしまう。


「……はぁ、……はぁ」


 なんだ。

 呻き声をあげただけか。

 一瞬、目を覚ましたのかと思って焦ってしまった。


「……って、これは、これは……」


 鎧の下から出てきたのは、筋肉質な体だった。

 日に焼けた体に、玉のような汗が浮いている。


 彼のバッグから拝借した手拭いで、その汗を拭き取っていく。

 凝固した血をお湯でぬぐった。


「う、うわぁ……。な、なんだか……。なんというか……」


 柄にもなくドキドキしてしまう。

 骨太で逞しい体だ。

 ジッと見つめていると、頬が赤くなってしまう。


「ちょ、ちょっとだけ……」


 試しに胸のうえに、手のひらを置いてみた。


「ふわぁあ……ッ!?」


 熱い。

 心臓がどくどくしている。


「……こ、これは。……じゅるり」


 荒い呼吸を繰り返す彼を、もう一度眺める。

 わたしは知らぬ間に出てきた涎を、袖で拭いた。




 ひと晩が明けた。

 今日も天気のよい朝である。


「どれどれ、お熱のほうは?」


 額に手を当ててみる。

 やはりまだ発熱したままだ。


 ちなみに鎧の下に着ていた服は、ちゃんと洗って乾かしたあとに、着せ直してある。

 名残惜しい気もしたけど、いつまでも上半身裸で寝かせておく訳にもいくまい。


「うーん、これはまずいわねぇ……」


 彼はいまも荒い息をしている。

 このままだとこの男性は、体力を消耗していくばかりだ。

 なんとか熱を引かせて、ご飯を食べさせないと。


「薬、薬……。やっぱりお薬よねぇ……」


 どうにかして解熱剤なりを手に入れたい。

 ここは覚悟の決めどきかも。


「……ぃよし。村に潜入しよう」


 逃げ出してきたあの村だ。

 きっと村には薬のひとつくらいあるだろう。


 そういえばわたしは、あそこで何日も無理やり農作業に従事させられたけれど、報酬も貰っていない。

 もちろん退職金もだ。

 代わりにちょっとお薬を頂戴しても、バチは当たらないと思う。


 そうと決まれば実行あるのみ。

 表に飛び出して、翼を広げた。


「とうっ、ドラゴンウィング! いくわよ! 目指すは村長のお家!」


 わたしは大空を加速して、村へと向かった。


1日3回更新中です。

次は12時頃の投稿になります。

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