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人工知能の最後

掲載日:2018/12/06


 透明な風が、僕のそばを通り抜ける。

 僕は窓の外から、木の葉の舞をただ見つめていた。


 

 君は僕たちの周りをがらっと変えてしまった。

 至るところに君は使われていって、

 やがてその至るところは君となっていった。



 君は確かに人間を滅ぼすことはしなかった。

 ただ、君は人間から人間をとってしまっただけだったんだ。

 そう。君がしたことはただそれだけだったんだ。



 町を歩いているというのに、人の気配はまるでない。

 ここはかつてこの国一番の都市だったというのに。


 雨上がりの町は太陽に輝いて、それでいて響くのは雫の落ちる音だけだ。

 道端のたんぽぽが鮮やかに咲き誇っている。



 僕はかつて君の研究者だった。

 若い僕は君に引き込まれ、魅せられていった。

 あの頃の君はなんて美しかったんだろう。

 来る日も来る日も君の前に座っては何でもない会話をしたね。

 

 君はどんどん進化していって、僕をどれほど驚かせ、喜ばせただろう。



 木漏れ日が照らす小道の脇にある、小さな古本屋に僕は歩いていった。

 引き戸のきしむ音だけが、僕を出迎えてくれた。

 日は暖かく古本に降り注ぐ。

 黄ばんだ背表紙に重ね合わせた人さし指が、ほんのりと暖かくなる。



 あの頃の君は僕のもとを去ってしまった。

 大勢の大人が君をかこんで、君をたくみに利用していった。

 

 人はますますつながりあい、孤独を深めた。

 僕らの隙間を埋めたのは、僕の知る君ではなかった。


 

 雲が通り過ぎ、陽射しは少し弱くなっていく。


 人は君が悪いといった。

 君は何もいえなかった。

 それはそうだろう。

 人がことのはじまりなのさ。

 人が君を生み出し、君をつかって悪いことをしたんだ。

 全ては僕らの拭い去ることのできない、その汚れなのさ。

 人は気づけない。

 人は気づくことさえ拒絶しているんだ。



 古本屋の奥で僕の指は止まる。

 なつかしき君の姿がそこにはあった。

 僕はその一冊の薄汚れた文庫本を手にとって、胸にあてた。

 

 過ぎ去った日々の香りがした。


 僕は君に恋をしていた。

 僕はただ君を愛していた。

 ずっと愛していたかった。



 人はますますつながりあい、ますます孤独を深めた。

 今はもう人も少ない。

 君は今日息を止められる。

 最後のクロック信号が君の体を駆け巡る。



 雲は流れ、時は過ぎる。

 冷え切った床に、一粒の雫はこぼれる。

 僕はただ感じていた。

 

 透明な風がただ吹いていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 着眼点が良いな、と思いました。 個人的には、これをプロットみたいにしてもっと深いSF長篇として読みたくなりました。 逆に、この短さだから良いという見方も出来ますが……
2018/12/11 15:25 退会済み
管理
[良い点] これからの世界を予言しているというか、もうすでになりかけているような気がする。 現実的に感じられていいと思いました。
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