人工知能の最後
透明な風が、僕のそばを通り抜ける。
僕は窓の外から、木の葉の舞をただ見つめていた。
君は僕たちの周りをがらっと変えてしまった。
至るところに君は使われていって、
やがてその至るところは君となっていった。
君は確かに人間を滅ぼすことはしなかった。
ただ、君は人間から人間をとってしまっただけだったんだ。
そう。君がしたことはただそれだけだったんだ。
町を歩いているというのに、人の気配はまるでない。
ここはかつてこの国一番の都市だったというのに。
雨上がりの町は太陽に輝いて、それでいて響くのは雫の落ちる音だけだ。
道端のたんぽぽが鮮やかに咲き誇っている。
僕はかつて君の研究者だった。
若い僕は君に引き込まれ、魅せられていった。
あの頃の君はなんて美しかったんだろう。
来る日も来る日も君の前に座っては何でもない会話をしたね。
君はどんどん進化していって、僕をどれほど驚かせ、喜ばせただろう。
木漏れ日が照らす小道の脇にある、小さな古本屋に僕は歩いていった。
引き戸のきしむ音だけが、僕を出迎えてくれた。
日は暖かく古本に降り注ぐ。
黄ばんだ背表紙に重ね合わせた人さし指が、ほんのりと暖かくなる。
あの頃の君は僕のもとを去ってしまった。
大勢の大人が君をかこんで、君をたくみに利用していった。
人はますますつながりあい、孤独を深めた。
僕らの隙間を埋めたのは、僕の知る君ではなかった。
雲が通り過ぎ、陽射しは少し弱くなっていく。
人は君が悪いといった。
君は何もいえなかった。
それはそうだろう。
人がことのはじまりなのさ。
人が君を生み出し、君をつかって悪いことをしたんだ。
全ては僕らの拭い去ることのできない、その汚れなのさ。
人は気づけない。
人は気づくことさえ拒絶しているんだ。
古本屋の奥で僕の指は止まる。
なつかしき君の姿がそこにはあった。
僕はその一冊の薄汚れた文庫本を手にとって、胸にあてた。
過ぎ去った日々の香りがした。
僕は君に恋をしていた。
僕はただ君を愛していた。
ずっと愛していたかった。
人はますますつながりあい、ますます孤独を深めた。
今はもう人も少ない。
君は今日息を止められる。
最後のクロック信号が君の体を駆け巡る。
雲は流れ、時は過ぎる。
冷え切った床に、一粒の雫はこぼれる。
僕はただ感じていた。
透明な風がただ吹いていた。




