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君を破滅へ導く明日3

 

 目を開けたら見慣れた天井でホッと息をつく。


「レイ」

「ここにいる」


 すぐ横に寝そべったレイがいて、私の片手を両手で包んでこちらを見ていた。


「まだ深夜だ。足を治したら、また眠れよ」

「足?」


 レイに寝巻きの裾を遠慮なく捲られて、硬い石床で痛めて痣のできた膝に気付いた。膝を立てたらズキズキと痛む。


「あいたたた」


 治癒を唱えたそばから、レイが膝をペロリと舐める。まるで舐めて癒してくれているようで、力を抜いて様子を見ていたら、そのまま足を抱き込んで動きを止めてしまった。


 太腿の辺りにある彼の頭に手を伸ばして、黒髪を撫でてみる。


「……大丈夫?レイ」

「………どこも悪くない」


 髪を撫でていた指を滑らせ、レイの喉を擽る。


「………来てくれてありがと」

「んー、レティが無事ならそれでいい」


 何となくぶっきらぼうに話すけど、ワンコレイは犬撫でされても嫌がらない。


「悔しいの?」

「……………………」


 レイは無言で、私の顔の辺りまで上がってくるや、こつんと額を突き合わせた。当たりだったみたい。


「目の前に仇がいた。殺しておけば良かった」

「………………」


 彼の肩を優しく撫でる。

 あの時、直ぐ近くにいた護という人に、レイは一瞬迷いを見せた。

 憎しみで金の瞳を光らせ、血まみれの手を握りしめて、今にも隙をついて攻撃しそうだったのに、しなかった。


 私の不安な視線に気付いたから。


 だから私を抱えてその場を去ってくれた。

 私を守ることを優先して、自分の憎しみを抑え込んでくれた。


「レティ、俺の傍にいろよ。絶対長生きするんだぞ」


 念を押すように言って私の唇にちゅっ、とキスをするものだから、傷付いていた彼の腕を取ってちょっと舐めてみた。魔族の治りの速さでも、傷痕はまだ残っていてそれを舌で辿れば、レイはぞくりと体を震わせた。


「は、レティ……」

「レイも傍にいてね。イチカちゃんのように……ならないで」


 私の言葉に、はっとしてからレイは強く否定した。


「俺はならない。あんな奴の好きにはさせない」

「うん。約束だからね」


 私は彼の傷を完全に癒すと、その手でレイの薬指の赤い石が嵌め込まれた指輪に触れた。


「約束だ」


 手を返して、私の指を絡めるとレイは噛み締めるように言葉を紡いだ。


「俺はいつもレティシアの傍にいる。もし離れることがあっても、必ず捜しだして傍にいる」

「うん、私も」


 あの後、白亜様達はどうしただろう。あんな風に白亜様を言葉で傷付ける護という人が、今どうしているか考えるだけでとても怖くて不安だった。


 もし護が、また元の世界に帰るつもりなら必ずレイが狙われる。それだけは絶対に嫌だから、レイが私を最優先するように、私もレイを一番に守りたいと思う。


 だから傍にいて離れちゃいけない。


 強く思って、レイを抱き締めようとしたら彼から私を抱き締めてきた。

 それから慣れた手つきで服を脱がしに掛かってきて、目を瞬く。


「あれ?」

「ちょっとだけ、はあはあ」

「えっと、私弱ってるんで、ひゃあ」

「ちょっとだけだから、レティを補充せねば」


 モミモミさわさわして舐められて、レイの尻尾に目を向けるが、被さるレイが邪魔で手が届かない。


 仕方無いので彼の髪をモフる。さらりとして濡れたように艶やか。後頭部から首に触れたらペンダントの鎖部分に指が届いた。

 それを辿って胸に下がる金の石に術を込める為に小さく唱える。


 気付いたレイが顔を上げた。



「弱ってるんじゃなかったのか」

「これぐらいは…」


 笑ったら、レイは俯いて私の服を直してくれた。


「ごめん、つい」


 布団を掛けてくれて、バツが悪そうなレイが可笑しい。


「レティは、いつも俺を気に掛けてくれてるのに、俺は……いつもエロいことばかり気に掛けてそればかりで」


 世界の皆、これが魔王です。


「ええっと、私もレイの尻尾ばかり気に掛けて、いつ飛び掛かろうか考えるばかりで、その」

「え」

「ごめんなさい、恥ずかしい」


 浅はかで欲望に忠実な私は、聖女なんかじゃない。決して『聖なる』女ではない!


「…………ほら」


 おもむろに背中を向けて転がり、私に尻尾を晒すレイ。


「レ、イ君!?」

「す、好きにしろ」


 恥辱に耐え、声を震わせるレイに尻尾も揺れる。


「いい、の?」


 自らの身を投げ出してまで私を癒そうとする彼に、胸が熱くなる。


 そっと尻尾を持ち上げてみる。


「くっ、優しく……頼む」


 恥じらう乙女のように震えるレイ、その尻尾にキスをして毛並みに顔を埋めてくんかくんかと匂いを嗅ぐ。


「う、う……そんな」

「はあ、至福。良き匂い」


 それだけで満たされて、しばらく尻尾を抱き締めていたけど、最後は抱き締めて欲しくなってレイにこちらを向いてもらった。


「ん、レティ」


 私を胸に抱いて髪に顔を埋めるレイは嬉しそうで、私も嬉しい。

 レイは護とは違う。

 私の姿が、レイの外見より年上に見えるようになっても、きっとこんな風にいつも私を抱き締めてくれるだろう。


 そんな時間が長く続きますように。




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