君と歩く世界2
魔界に来て1ヶ月が経とうとしていた。
ある日ギル兄に呼ばれて、私は城から離れた飼育場にやって来た。
飼育場は高い柵に囲われた広大な草地で、ギル兄は思った通りそこで、たくさんの下級中級魔族を飼っていた。
「ふわあ、すご」
柵越しに、色んな姿の動物型の魔族が顔を出して、私はビクビクしながら通った。
でも草食肉食問わず、どの子も大人しい。
人間界では暴れてそうな彼らだけど、レイが魔王になってからは、彼の意志に従うようになるので落ち着いている。
柵の周りを通っていたら、大きな小屋に着いた。
聞いていた通りに、そこに入っていった。
「ああ、来ましたか。レティシア様」
いつの間にか私のことを様付けするようになって、ギル兄は屈んだ状態で振り返り手招きした。
小屋の中は、牛舎のように小さく仕切られていて、主にまだ子供の中級魔族が一匹ずつそこにいた。その一画、ギル兄の視線の先には卵が4つ、藁の敷かれた中に埋もれるようにして並んでいた。
「これ…あの時の竜の卵?」
「ええ、もうすぐ孵化しますよ」
「あ、ヒビが」
ディメテル国の竜型の中級魔族の騒動で見つかった竜の卵。1つはタリア様が手元に置いて、4つはギル兄が育てていたんだった。
卵全部に横にヒビが入っていて、中から「キュロロロ」と独特な雛の鳴き声が聴こえる。
私とギル兄は、じっとそれを見守っていたが、次第にヒビが大きくなって、卵の上部が蓋のように上へと持ち上がってきた。
「前へ」
「へ?」
「だから、刷り込みです」
「え、私?」
背中を押されて、ギル兄よりも前へ移動し、私は卵達の目と鼻の先に座らされる。
「魔王の妃となったからには、あなたに仕える中級魔族の一匹や四匹必要でしょうから」
「わわ、出てきた!」
ぱかりと卵から、ほぼ同時刻に誕生した四匹の竜の赤ちゃんは、体長一メートルぐらいの赤い竜で、大きな金茶色の愛らしい目を私に向けてきた。
「えっと……初めまして」
私の胸中は、複雑だ。
正直、かなり可愛い。この子達が、私を刷り込みで親と思って懐いてくれるなんて嬉しいな。でも、いいのか?私は君達の親の仇なんだよ………
1つ物語が作れそうだ。
竜の子供達は、そんなこととは知らず(知らない方がいいよ)卵から這い出てくると、小さな翼をパタパタしながら私にまとわりついてきた。まだ上手く飛べなくて、数センチだけ浮いて懸命に私に飛び付いて、顔をペロペロ舐めて、甘えた声で鳴いて、足とかに体を擦り付けてきた………なんか似たことされた覚えがあるなあ
「ちゃんと貴女を主と認識したようですね。この分だと、ディメテル国の卵も孵化している頃でしょう」
「ひゃあ、やめっ」
一メートルの竜4匹にぐいぐいと迫られ、私は遂に藁の上に倒されてナメナメベタベタ攻撃をされてしまった。
「……………ああ、よく懐いて、良かったです」
ギル兄は、そんな私を冷めた目で見下ろして「忙しいので失礼」と、そそくさと何処かへ行ってしまった。
え、助けて?
****************
「浮気者」
「へ?」
傷付いた瞳で私を責めるマイ旦那。なぜに?
「俺というものがありながら、ギルにそそのかされて竜共に体を許すとは!」
「いやいや」
「ナメナメベタベタして、お前をトロトロに溶かしていいのは俺だけなのに!」
「アイスじゃないから」
そんなこと言いながらも、二人でお風呂に入っている新婚夫婦です。
湯に浸かって、私を後ろから抱いてベタベタして、ブウブウ煩いレイ。
「でも、凄く懐いてくれて可愛いんだよ」
「ちっ、竜の母親にでもなったつもりか?」
スリスリと私の頬や首に顔を擦り付けて甘えるレイ君、ところで手はどこを触ってるのかな?
「そうだね、おお、一気に4匹も!お世話が大変だ」
ギル兄は、どうやって飼ってんだろ。魔力も使って世話してるのかな?魔力、どう使うんだろ?
「…………俺の子の母親にもなってないのに………」
耳元で切なく囁かれて、ドキッとした。
「れ、レイ、それはまだ早すぎ」
「いつかなってくれる?俺頑張るから!めっちゃ頑張るから!なんならずっとレティが孕むまで、部屋に閉じ籠って頑張るから!」
怖い!!
ところで、どこでそんな話にすり変わった?
「わ、わかったわかったから………ん、ちゅう」
操縦法を取得した私は、目を血走らせて鼻息の荒いレイ(湯にのぼせてるね、これは)の気を逸らす為に、優しく唇にキスをしてみた。
「ちゅ、レティ………」
それだけで機嫌が直って、自分の支離滅裂な危ない監禁凌辱発言を忘れるレイ。
「は、はあはあ、続きを」
あ、忘れてなかったか。
ザバア、と湯船から私を抱き上げて、いそいそと出るエロ魔王。
仕方ないので、妥協案を出す。
「レイ、今夜は私がご奉仕します!」
「な、ぬあ?!」
私を甲斐甲斐しくタオルで拭いていたレイが驚いて変な声を出した。
「お詫びということで、私がレイを気持ち良くさせるね」
赤い顔で口許を覆うレイ。他は覆わないのか?
恥ずかしそうにレイは、軽くローブを羽織って素早くベッドへと移動した。
私は嬉しそうに揺れる彼の尻尾を見ながら、ほくそ笑んだ。
「ほら…………レイ。楽にして、ひひ」
「わ、わかった。ひひ?」
軽く肩を押すと、素直にベッドに横になるワンコ。
「うつ伏せになって欲しいなー」
「え、うつ伏せ?まさか!」
お尻をびくつかせて、戸惑うレイ君。違うから、開発しないから。私は読んだりはするけど、現実的にはナシだから。なんでドキドキ乙女な顔してるかな?
「大丈夫だって」
私は隣に横になると、手を伸ばした。
「私の熟練したモフ手技で、いざ魔王を高みへ!」
「は?!何言って、はあっ、あ、ああ」
尻尾をするすると揉みしだくと、たちまち悶えるワンコ。
「さあ、もう何も考えなくていいから、快楽を貪って」
「ばか、酷い、あ、優しくして」
「はあはあ、モフモフ、好き好き」
「な、なんでこうなった、はう」
こうして、モフに疲れ果てた私が、喘ぎすぎて声を枯らしぐったりしたワンコの尻尾にくるまって眠るまで、狂乱のモフりの夜は終わらなかった。