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君よ……どうか6

 

 レイの指がそっと鎖骨をなぞり、肩に吐息がかかる。


「っ! 」


 びくりとして離れようとするのは、雨の夜に噛まれたせい。

 肩に触れそうだった唇が、私の名を紡ぐ。


「レティ」

「あ……ごめ…」


 拒否したように思ったかな。

 口許に拳を持っていき、不安げにレイを見上げる。


「い、痛く、しないでぇ」

「ぐっ、は、はあはあ、だ、だいじょうぶ」


 以前噛み付いた肩を繰り返し撫でてから、そうっとキスをして「酷いことはしないから」と、レイは宥めるように私の頬にもキスをした。


 体を隠そうとする手を、彼がやんわりと外して握る。


「は、恥ずかしい……灯りを消して」


 言った途端にレイの魔力が消してくれたが、暗闇にも迷わずさわさわする手に、ハッとする。

 魔族は夜目がきく。


「もしかして、レイ見えてるの?」

「ああ……はあはあ、大丈夫……一緒に風呂に入っていたんだ。レティの腰にある、ほくろも知ってる」

「うきゃ、やだあ」

「気にしない……大丈夫」


 何が大丈夫?

 でも力の強いレイが、私が怖がらないように凄く気を遣って触れているのはわかる。


 今まで色々されたけど、こんなにぎこちなくて優しい触れられ方は初めてかもしれない。

 キスが下へ下へと移動し、やがてやっぱりいつものように舌を出して私の肌を舐めた。


「ん」

「あ、甘い」


 驚くレイに、顔が合わせられなくて手で覆う。


「……なんか口に入っても大丈夫なオイルを塗られて、ひゃん」


 もう一度味見をして、レイが食レポを始めた。


「これは……飽きのこない甘さに、後味に舌に残るピリッと刺激的な旨味。まさに一舐めしたら病み付きになる味」

「レ……」

「美味しい、レティ」


 目を細めるレイを見て、遂に吹き出して笑ってしまったら、こめかみにキスをして彼も笑う。


 私の足の間に体を割り入れて、顔の横に手をつき見下ろすレイに、自ら両手を広げて抱き締められることを求めた。


 私の様子を窺いながら、レイは丁寧に時間を掛けて触れ、たくさんキスを贈り、とても大事そうに抱いてくれた………途中で理性を失うまではね。



 ***************


「………レイ様、いたんですね」

「んー」

「いつの間に」

「んー」

「………エロ魔王」

「んー」


 次の日の昼、ギールバゼアレントは執務室にいるレイを見つけた。

 今日はもう部屋から出て来ないと思っていたので、新しく追加の書類を仕分けて、自分が代わりに少し仕事をしようとやって来たのだった。


 魔界は人間界と政治の仕組みが違っていて、議院も無いし貴族もいない。加えて魔王を守る騎士もいない。だって強いから。


 魔王の力によって下級中級魔族は本能的に従うし、上級魔族には貧富の差はなく、基本自分達のことは自分達で処理してしまう。

 争い事は滅多に起きず、起きても互いに話し合って解決させる。

 上級魔族という種族は穏やかで強くて、干渉されたりすることを厭う性質があった。


 だから魔王の仕事といえば、滅多に無い出産や死亡届の受理だったり、建設工事の許可だったり、まあなんとか一人で半泣きでこなせる程度だ。


 心此処に有らず。


 レイは椅子に座って手にペンを持ってはいるが、それだけ。

 ぽうっとして、ギルに悪口を言われても生返事をしている。


「仕事しないのに何でいるんですか?」

「んー……午後レティとデートに行くから、それで今のうちにと……」

「できてませんけどね」

「………幸せ」

「はいはい、良かったですね。それで無理強いしなかったでしょうね、彼女は部屋ですか?」

「するわけないだろ!はあ、可愛かった気持ち良かった良い匂いで良い味のセクシーレティ……」

「……………」

「ギル、レティは多分厨房にいると思う。結婚祝いのケーキを作るって言ってた。はああ……」


 ギルは魔王の甘いオーラに当てられ身体中が痒くなり、そのまま放置して去ることにした。でも、ふと気付いた。


「いや待ってください。いると思うって、あなた魔力はどうしました?全く感じませんが?」

「レティに魔力吸収されちゃった。なんか夢中になって色々ずっとしてたら、しつこいって俺の、俺の一部(魔力)がレティの一部に……はあはあ」

「……………………………」


 悪びれず頬を赤らめるレイに、ギルの冷たい視線が向けられたが、それすらピンク脳の彼にはへっちゃらだった。

 彼女も彼女だ。

 レイの魔力を全部吸い取るとは聖女でも彼女ぐらいだろう。そしてしつこいと言って……グッタリしてる?割りに、普通にケーキ作ってるって人類最強か?


 まあ魔王をデレンデレンにして仕事に支障をきたせてるのだから、最強か……


「指輪を渡すんだ」


 嬉しそうに呟くレイに、呆れた顔をしつつもギルは少しだけ口端を上げた。


「はいはい、お幸せに」


 イチカは、兄であるレイのこの様子を見たらきっと喜んだことだろう。呆れながらも。


 数百年、何度も助けに向かって、人間達に阻まれて、イチカの死にも立ち会えなかった自分だが、少しだけ報われた気がした。




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