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君よ……どうか2

 

 カツン、カツンと踵の高い靴が床を鳴らす。


「レティシア様、ファイト!」

「よし、スリィちゃん行くよ!」


 慣れない靴に、ふらつかないように、スリィちゃんが私の右手を取って支える。

 手首の小さな赤い花が咲いたブレスレットがシャラシャラと軽やかな音をたてる。


 私は一晩中スリィちゃんに手伝ってもらって、ドレスを試着し、髪をどうするか、メイクは何が似合うかを話し合った。

 スリィちゃんは、私の肌のお手入れも入念に施してくれて、アクセサリーの手配や言葉遣いや綺麗に見える姿勢もチェックして、その細やかさは一流のメイドさんであることを窺わせる。


 聞けばスリィちゃんは、なんとレイのお母さんのメイドさんだったらしい。

 そうだよね、魔族だね。こんな私よりも若い姿なのにね……


 例の小部屋に着いて、一つ深呼吸して、スリィちゃんが部屋の扉をゆっくりと開けた。


 レイは椅子に腰掛けていて、私の気配に反応し、その横顔が不安やら期待やらで目まぐるしく変わっているようだった。

 ギルさんが、先に私に目を向けて口を徐々にあんぐりと半開きにした。


 だいぶ経ってから、ギギギッと機械仕掛けのようにレイが首を動かし、ようやく私を見た。


「レイ、お待たせ」

「……あ、あ、あ」


 ギルさんと同じように口を半開きにし、レイはその状態で石化した。

 ………やっぱり、変だったかな


 高めに上げて編み込んで纏めた赤い髪に、色合いを考慮した深緑の腰下からボリュームをもたせたドレス。

 胸元は大きくカットが入っているけど、品良く見せる開け具合。

 ドレスは銀色と橙色の糸で草花が描かれていて、目にも美しい。

 首と耳、手首に派手すぎないアクセサリーを身に付け、普段あまりしないメイクをしている。

 薔薇色の口紅だけは、髪色を考えて試行錯誤した末だが、結果的には、色っぽい感じが出て、スリィちゃんは「良い仕事ができて幸せです!」と涙を溢してくれた。


 私は入念にチェックした自分のドレスを見て、やっぱり大丈夫だと頷いてレイに歩み寄った。


「世界中が見るのに変な格好はできないし、魔王のお嫁さんとして見てもらうなら、レイと釣り合うように少しでも綺麗にしなきゃと……思って」

「あ、あ、あ……」


 さっきから「あ」しか言わないな。確か子供の頃に読んだ本に出てきた中級魔族「ヨオナシ」がこんなだった気がする。

 欲しい物を何でも手から出す「ヨオナシ」。今の私には望むものは何もない。もう十分もらったから。


「あ、あなたはレティシアさんですか?」

「はあ、そうです」


 ギルさんが、驚愕に目を剥いて私に問う。


「あなたが、あのバカでアホな変人で、意外にチートなレティシアさんですか?」

「……違う、かな?」


 ギルさんの質問に気を取られていたら、足をかくっと捻ってふらついた。


「あ」


 レイが、ふわりと腰を支えてくれて、私は抱き寄せられる形になってしまった。お腹の位置にレイの顔があって、私は照れながら見下ろした。


 レイは、無言で私をじいっと見上げてまばたきを忘れたみたい。


「レイ」

「か……かわ…かわ」


 私のお腹に顔をくっ付けて、ぼそぼそと口を動かしていて、それが「か、可愛い……レティ…かわ、いい」と言ってるのだとわかって、私は嬉しくなった。


「レイ、私の髪……イチカちゃんに似てるから好きなの?」


 最後に聞かないと、と思っていたことを口に出したら、レイは、はっとしたように私を見上げた。


「私を……妹と重ねて」

「違う」


 私を見据えたまま、レイははっきりと否定した。


「イチカは……母方の祖母の髪色が遺伝した。確かにお前を初めて見た時イチカを思い出したが、お前はあいつとは全然違う。髪の色は、お前の方が深い色で……性格はお前の方が明るくて……」


 一生懸命に言葉を紡ごうとするレイを見ていたら、自然に笑っていた。


「とにかく、俺はレティシアが、レティシアだから、す、好き」

「レイ、私がお嫁さんでもいい?」


 彼の頬を撫でると、いっぱいいっぱいらしいレイはこくこくと何度も頷いた。それから私の腰を両腕で強く巻くようにして、顔をすりすりとお腹に擦り付けてきた。


「はああ……神様ありがとう」


 魔王が、神様って…

 ちなみに人間は創造神を唯一信仰しているけど、魔族は宗教は無いはずだ。


「レイ、と、隣に座るから」

「んー、嫌だ、もう離さない」

「レイ君……ちょっと」

「ちゅう、ちゅうしたい」


 幸福脳になった甘えワンコの目がとろりとしていて、顔を寄せてきてヤバい。

 離してくれないので、ギルさんに目で助けを求めると、溜め息をついた彼は、容赦なく主人の頭をぶっ叩いた。


「しっかりしなさい、魔王!」


 衝撃で目をぱちくりしている間に、隣の椅子に腰掛ける。夢見心地なレイの手を握ってみたら、これからこの人と生きるのかとドキドキと高揚感のようなものが湧いてきた。


「………レイ」

「………あ……ああ」

「ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします……あなた」

「あ、ああ!はうっ」

「あ、愛しています」

「ぐはあっ!」


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