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君よ……どうか

 

「…………レイ、私まだ18だよ」

「俺なんか500……忘れた。歳は関係ない」


 私の膝に顔を乗っけたままのレイと、不思議な緊張感を漂わせて見つめ合う。


「両親には」

「了承済みだ。お前の家に泊まった夜に、話はつけている」

「ああ、あの時………」


 それでお母さん達、私をよろしくなんて言ってたんだね。

 そうか、ギル兄のさっきの話も、あれは私に決断しろと言っていたんだ。その前にも、「覚悟はあるんですか?」と私に聞いたのも……


 それに辛い話を聞いた後に、この話は反則だよ。


 なんだか外堀を埋められてしまってる気が……


 思わず笑ってしまい、レイの頭を抱いて頬を寄せた。安心したのか、彼は私の膝に顔をすりすりして甘えたような仕草をとる。


「お、俺が早く言い出せなかったのは、お前が旅をしていた間、自由にイキイキして楽しそうだったのを見ていたから」

「ん?」

「ここでもそうだ。お前は自分のやりたいことをしている時が一番幸せそうで……でも、その……王妃になったりして前より自由に過ごせなくなったら……いつか」


 言いながら、弱々しくなる声。


「いつか?」

「いつか、俺から逃げるかもって……聖女の役目から逃げたように……」


 うーん、耳が痛いな。

 弱気な言葉とは裏腹に、レイは足をさわさわ触りまくっている。


「レイ君」

「はい」

「私がここにいるのは、私の意志だよ」

「はい」

「私が君の傍にいて、君が好きなのも私の意志なの」


 パアッとレイの顔が嬉しそうに輝く。


「それは……返事は」

「ところでレイ、明日の魔王宣言は人間の世界にも流れるの?」

「え?ああ、そうだが……返事」

「アテナリアにも……白亜様や橙や翡翠やカインにも?」

「ふっ、あの神官、どんな顔をするだろうな。ざまあ……で、返事は?」

「………そうなんだ」

「お前は、気が引けるかもしれないが……その…返事、は?」


 私は座っている椅子の肘掛けを見て、前にある鏡を見た。

 全世界……


 沸々と闘志が湧いてきた。

 こうしちゃおれません!


「レイ君!!」

「はい!」


 ぱっと立ち上がり、胸に拳を作った。


「行ってくるよ、私!」

「え?」


 目を丸くしたレイが私を見上げているが、今は「このう、可愛いワンコめ」と思う余裕は無かった。ちょっとだけだ。


 早足で部屋を出て、作戦会議に突入すべくスリィちゃんを探す。


「………返事」


 か細くレイの声が響いたが、今の私は、ある種戦いに赴くファイター化していて耳に意味として入ってこなかった。


 **********


 その日、新魔王の腹心ギールバゼアレントは、明日の準備をして夜遅くに自室に戻った。


「…………どうしました?」


 部屋の前の暗がりに、膝を抱えて壁に凭れて座る新魔王がいた。


「………………」

「あなたのおかげで、魔力の拘束を解くのに一時間掛かりました」

「……………………………レティが来ない」

「は?」


 顔を突っ伏して、レイがぼそぼそと喋る。


「…………俺の部屋に来ないんだ。レティの部屋に行ったら、強い結界が張られていて、ご丁寧に『魔王立ち入り禁止』の札が掲げられてた」

「それはご丁寧に」


 面倒そうにギルは言い、部屋に入ろうとしたが、ガシッと足首を掴まれてしまった。


「ちょっと鬱陶しいんですが」

「俺は求婚した」

「ほう、よくやりました。ヘタレ」

「う……返事がもらえなかった」


 足首を掴んだまま項垂れる魔王を見下ろし、ギルは魔界を憂えた。


「フラれたかも……」

「………そうかもしれませんね」


 ギルの同意に、ショックを受けたレイが悲しく呻く。


「さよなら、俺の初恋」

「………何言ってんですか」


 あの変な聖女は稀に突拍子も無いことをする。それにあんなにレイのことを好きだと言っていたのに、今更フるだろうか?


 捕まれた足首を引き摺り、レイごと部屋に入ると、ギルは戸棚からお酒のボトルを取り出した。


「一杯どうですか?」

「うう」


 よたよたと床に座り直し、レイは杯を手にした。


「少々酔って、忘れることです」

「うう……そんな簡単に」


 注がれた琥珀色を見ていたが、やがてちびちびと呑み、次を要求した。


「例え何があっても明日は、宣言して下さいよ。1000年振りの記念すべきことですからね」

「ん……レティを待つ」


 ギルは、レイの表情を見て鼻を鳴らした。


「待っても来なかったら、あなたは追い掛けるんでしょう?」

「………だって悪魔で魔王だし、まだナメナメの間柄なんだ。俺は深いエロを究めたいんだ!」


 不貞腐れた表情をしながら、レイの目はまだ光を失ってはいなかった。


 そんな彼を眩しそうに……は見ず、冷めた目で見るギル。


「………………それに変態ですから常識通用しませんね」

「え」


 ギルは杯を煽り、更け行く夜に思いを馳せた。


「可哀想なレティシアさん。こんな変態魔王で御愁傷様です」


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