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君の暗黒を愛す5

 

「少し話がしたい」


 そう言って、レイは私の手を引いた。


「以前話すって言ってたことだが」

「イチカちゃんの話?」


 神妙に頷き、レイは私をどこかへ連れて行こうとする。


 ………ギルさんは、あのままでいいの?


「結局聖女青は、俺達をアテナリアに連行はしたが、結界を破ることはできず、俺もできなかった。あの女はどこで知ったのか、俺達の力を欲していた」

「力?」

「魔族と人間の間に生まれた子供は、特殊な力を得る場合が多い。ギルは少しだけ体内の時を停止させる。俺とイチカは、自らの血を媒体に空間を開く」


 開く?


 レイに連れてこられたのは、他の部屋よりは小さな部屋で、中央に椅子が2つ並んでいた。

 肘掛けがあり、赤い絹を張った豪奢な椅子で、その前には大きな鏡のようなものが立てられていた。


「時や場所関係なく、望んだ相手を呼び寄せたり、あるいは異世界への扉を開く。聖女青は、おそらく自分の世界に戻りたかったのだろう。拘束の術に秀でていて、結界の外から俺達の手足の自由を奪い、言葉を封じはしたが、それが精一杯。最後には諦めたがな」


 レイに促され、2つのうちの一つの椅子に腰掛けて、私は彼を見上げた。


「だが、次に白亜が異世界から墜ちてきた。連れの男と共に」

「え?」


 初めて聞いたことだ。私の表情を見つめ、レイは「やはりな」と呟いた。


「知らなかったのだろう?白亜のパーティーは四人だった。神官ネーヴェ、アテナリア王子である勇者エドウィン、聖女白亜、そしてもう一人の勇者、護」


 その名を口にしたレイは、拳を額に当て堪えるように目を瞑った。


「…………その存在を隠されて当然だ。奴はイチカを殺し、その血を利用して異世界に帰った……狂った勇者だ」


 何が正しいのか、もう私にはわからない。


 レイは怒りと憎しみで顔を強張らせて、吐き捨てるように話す。


「………父の結界は変わっていて魔力で作られていた為に、長い時の間に、少しずつ俺から沸き上がる魔力も巻き込みながら保持され続けた。だから、俺が結界を破ろうとすればするほど魔力は結界に取られ、俺は結界を不本意ながら強化してしまい、逆に体は弱体化してしまった。だが、イチカは違った……あいつは人間に近く魔力が少なく、結界は段々と脆くなっていった」


「レイ……もういいから」


 とても辛そうな話、レイは苦しそうなのに、私に話そうとする。


「いいや、聞いて欲しい。嫌な話だがお前には聞いてもらいたい。そうでないと前に進めない」


 僅かに冷静さを取り戻したレイは、そう言うと、両手を伸ばして招く私の前に膝を付き、私の膝を抱いて頭を乗っけてきた。


「…………白亜が魔力吸収で結界を破り、護がイチカを切り刻むのを、俺は傍で見ていた。奴がイチカの腕に剣を突き立て、流れる血で無理やり異世界の道を開かせ……白亜と二人分帰る道がいるから、血は多い方がいいと……首の動脈を……」

「レイ……!」


 屈んでレイの頭を抱く。聞いているだけで苦しいのに、それでも彼は絞り出すように話す。


「………俺は傍にいながら、助けることもできなかった。妹の悲鳴も、俺の結界に飛んだ血しぶきも、全て記憶して今も鮮明に……」


 私の足を強く抱き締め、俯いたままのレイが、声を震わす。


「憎くてたまらない!護と帰れなかった白亜は、次は俺の力で帰ろうと、聖女候補達に試験と称して結界を破らせようとした。力を使い果たして、もう自分では無理だとわかっていたから……たかが帰還する為に、イチカを殺したくせに、更に…!」


 そうだったんだ。

 その頃には、もう魔王は死に瀕していたから、次の魔王封印は無かったはずだ。

 だったら、私達は白亜様の望みの為にいたようなものだ。


「……ごめん、ごめんなさい」


 無知な自分が恥ずかしい。私が呑気に過ごしていた間に、レイはずっと辛い想いをしていたのに。


 レイの髪を指で漉きながら泣いていたら、そっとその手を宥めるように握られた。


「………お前に解放されて、最初はアテナリア…人間共全てを殺そうと思っていた。まあ実際は弱体化で力なんて無くて、おまけにお前のイヌだったからな」


 膝に頬を付けたまま、レイは目を閉じて話す。


「今でも白亜や護やアテナリアの奴等は憎い。だがお前と出会って……その……」


 言いにくそうに、握った私の手を指で撫でながら、レイは目は逸らしたままで顔を上げた。


「俺は、人間であるレティが好きだ。だから、お前が泣かないように人間を殺すのはやめておく」

「………レイ」


 剣呑だった表情を消し、レイはぐすぐす泣く私の涙を指で拭いた。


「だから……レティ、明日の朝、同じようにそこに座って欲しい」

「………何で?」

「そこの鏡を媒体にして魔力を流すと、今レティがいる椅子の辺りの映像が、全世界の空中に投影される。勿論音声も」

「………へえ」


 よく分からず生返事で返したが、レイは緊張した声で説明する。


「明日、俺は新しく魔王になったことを全世界に宣言する。その時、お前を王妃として紹介したい」


 私を期待を込めて見上げるレイの顔を、ぼうっと見つめる。

 情報量が大量で、頭が許容範囲を越えておかしいのかな?


「………誰がなんて?」

「お、お前を……王妃……に」


 ぎこちなく口を動かすレイを、じっと見る。


「…………………」

「け、結婚、して?」


 ちょっと泣きそうに、レイが言い直した。

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