表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/127

君の暗黒を愛す

「俺と妹が生まれて200年ほどのことだ……魔王を封印するという名目で勇者パーティーがやって来たのは」


 私とレイは、再び洞窟にやって来た。


「そのパーティーにいた聖女青は、やはり異世界から来た女で強い力を持っていた。そしてなぜか俺や妹を捕らえようと躍起になっていた。その為魔王は、俺達を守るために魔力で結界を形成し、一時的に俺達を封印した。勿論父は、勇者達を撃退した後に、直ぐに結界を解くつもりだったが、魔王は封印され……俺はずっと」


 突き当たりの壁に凭れて目を閉じる魔王をレイは静かに見つめる。


「まさかこんなに長くかかるとは思わなかった」


 父親の肩に触れようとした手は、白亜様の結界に阻まれて届かない。


「俺と妹…イチカは、アテナリアに連行されて人質となった。父は、俺達が危害を加えられることを警戒し、自らが封印され続けることと引き換えに、俺達の安全を約束させていた」

「ずっと、望んで封印されてきたって……こと?封印が解けかけたら、また他のパーティーに封印されてきたの?」

「封印途中に、寿命が尽きても」


 安らかに眠る魔王リンデンバルト。


 私は衝撃を受けて、その顔を見た。

 この人は、真面目で家族思いの優しいヒトだったんだ。


 レイは、ゆっくりと後ろに下がった。そして邪魔にならないように十分離れた所から、私を見守る。


「………できるか?」


 結界を見たまま、私は頷いた。


 白亜様の結界は、白く美しい光を帯びて強固だった。でもあと2年で尽きるものだ。

 私は朝の内に作っておいた札のような紙を、その結界を包むようにペタペタと押し付けた。

 特殊な聖女の術により、札は貼り付いたようになって固定される。


 簡単な解術の言葉を書き込んだ札だが、数は800枚。1日一枚、封印が解けるまでの日数分。

 800回の解術を行う。


「レイ、長くなるよ」

「ああ、見てる。無理はするなよ」

「平気」


 結界の札の一枚に手を触れ、目を閉じ集中する。

 背中にレイの視線を感じる。


「……レティ、ごめん。俺の勝手な望みで」

「どうした、いきなり」


 ためらいがちに言われたことに、つい笑ってしまう。


「お前は人間なのに、俺はいつもお前に人を裏切らせる」

「私が決めたことなの、それを否定しないでよ……聖女深紅の名において、聖女白亜の結界を解術せん。解けよ、その綻びを…」


 そのまま私は解術に取り掛かって、これ以上レイの殊勝な言葉を聞かないようにした。


「……レティシア」


 名を呼んで、レイは小声で「ありがとな」と呟いた。



 *********


「ハア……ハア、う、解術せん……解けよ、その」


 何時間経っただろうか。

 ぐらぐら目眩がして、意識も朦朧としている。

 何とか気力で立っているけど、気を抜けば平衡が保てずに直ぐに倒れそうだ。


 あと一枚。

 霞む目を凝らし唱える。

 レイの手が、私がふらつく度に後ろから支えようとして、留まる。

 集中する私の妨げになるとわかっているからだ。


「……これをもって結界を消去する。解術」


 魔王を包む光が消えていく。

 それを見た途端、力が抜けて後ろへ倒れた。


「レティ………レティ…」


 予想していたのだろう、直ぐにレイの手が私の背を受け止めた。

 抱き上げられて、私は魔王の方に視線を向けた。


「レイ……」


 疲れ切った私を心配そうに見ていたレイが、そちらに目を向けた。そして、微かに顔を歪めた。


 目を開けた魔王が、私達を見ていた。


「………ネル、メーベルは?」


 黙ったまま首を振るレイに、魔王は「そうか」と短く言って、一度目を閉じた。それから私を興味深げに見つめてきた。


「ようやくだ。礼を言う、聖女」


 緊張しつつ頷くと、魔王の体の輪郭がぼやけだした。


「レティシアだ。俺の…」


 レイが言い掛けて言い澱むと、魔王は、ふっと笑った。



「血は争えないな」

「ああ…………親父、またな」


 別れの言葉を、既に淡い陽炎になった魔王が返した。


「さらばだ……」


 洞窟に響いた言葉が跡形もなく消える頃には、そこには魔王が携えていた黒い抜き身の剣だけだった。


 レイは私を抱えたまま、地面に片膝を付き、その剣を手にした。

 すると、剣に姿を変えていた魔力が手の平に吸収され、レイの体から強い魔力のオーラが発せられた。


 金の瞳は、高温の火のように益々強く光り、黒い魔力は、見えない者でも畏怖を感じさせるほどの圧迫感を伝える。


「怖いか、俺が?」


 魔王の力を受け継いだレイが、涙を溢す私に問う。


 この人は、何を言ってんだろう。


 力の入らない手で彼の両頬を包むと、金の瞳が瞬いた。


「レイ、泣いてもいいんだよ」

「……魔王が泣くわけないだろ」

「じゃあ、私が代わりに泣く、うわああん!レイのお父さん死んじゃったよお!!」

「レ……レティ…」

「悲しいよう、うええん」


 呆気に取られていたレイは、私が首にしがみつくと我に返ったのか、応えてぎゅっと抱き締め返してくれた。


「もう、ほんと、お前は……」

「ぐすっ、淋しく、淋しくないからね…私が…」


 疲労困憊の私は、泣きながら寝落ちした。


 だからレイがその後言ったことが、よく耳に入らなかった。


「レティ、俺の………あれ?」

「くうー」


 ………レイのお父さんの言ってた、血は争えないってどういうことだろう?






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ