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君を我が手に5

 

 聖女紫は、12人の仲間と共に魔王軍と戦った後、とある国の王子との縁談が持ち上がった。


「え、なんで?うち帰りたいんだけど」


 仲間達は、憐れみと呆れの眼差しで彼女を見た。


「帰れないって、ここの人達言ってたよね?聞いてなかったの?」

「だっけ?ええー、まじ?チョーふざけてんな」


 仲間達の中には、自由にしたいからとさっさとどこかへ行ってしまった者もいた。あるいは、この世界で直ぐに彼氏を作って、手を取り合って姿をくらました者も。


 ぼうっとしていた紫は、縁談に捕まってしまったのだ。

 でも一度顔合わせたら、向こうから断ってきて破談になった。

 なぜ断られたか、よくわからなくて、でもホッとして彼女は考えた。


「そうだ、魔界行こう!」


 周りの言いなりで、振り回されてちゃダメじゃん自分。どこか遠くで暮らそうぜ自分!イコール魔界。

 そうして、ひょっこり来てみたわけだが……


 普通なら戦った相手のとこなんて行かないだろうけど、紫は軽いノリとおおらかな気質で、そんなこと考えなかった。

 そして魔王は超真面目な割りに押しに弱かった。


 最初こそ警戒していた魔王だが、直ぐに彼女が頭空っぽだとわかり、放っておけない性格が災いし、あれこれ世話を焼いていたら……いたら、子供ができた。


「あり、まじで?やっば、うちママじゃん!」

「す、すまぬ……取り敢えず責任取る。私と結婚を」

「え、まじで、デキ婚キター!!」


 そうして魔王と聖女紫の間に、双子が生まれました……おしまい


 *************


「双子?!」

「ああ、俺には妹がいた。メーベルシュライカ、母は一花(いちか)と呼んでいたな。どうせなら二つ名って魔王の子供らしくていいんじゃね?みたいなノリで付けられた名だ。『最も初めの者、零の次だから1』みたいな軽さだ」

「へ、へえ……でも意味があるんだよね?」


 レイは名前が恥ずかしいらしい。渋い顔で答えた。


「……魔王と聖女の……いや、魔族と人間の間にできた最初の子供達、友好の証みたいな意味だったか……」

「なるほど。お母さんは皆仲良くして欲しくて、レイやイチカちゃんに願いを込めたんだね。良い名前だね」


 私の髪を弄るお返しに、私もレイの短い髪を撫でてみた。


「母は90で死んだが、最期まで弾けておかしなヒトだったな。魔王……父とは老いても仲が良くて母を亡くした後は、早く彼女の元へ行きたいなどとほざいていた」

「そうなんだ………」


 私は『聖女の術一覧』の開いたページを指で何度かなぞり、手順を頭に叩き込んだ。

 解術の方法が示されていて、これを応用すればおそらく封印を解くことができるかもしれない。

 あとは、自分の実力の問題だ。


 レイは話を切ると、私が本を閉じるのを待って身を寄せてきた。


「レイ、イチカちゃんはどうしたの?」

「……もういない」

「………レイ」


 私の肩の辺りに顔を埋めて、レイはそれっきり黙ってしまった。そんな彼の髪をしばらく撫でていたが、レイは目を瞑ったままスリスリと甘えるような仕草をとる。そして次第に移動して、胸に頬擦りを始めだした。


 大人ワンコが甘えるのは可愛いだけじゃなくて、破壊力がヤバい。


「レ、レイ君、あの…」

「んー」

「そ、そういえば私のお母さん達に何を話していたの?」


 心臓の音が聴こえるのを誤魔化そうと、話題を変えてみる。同時にレイを引き剥がす為、体を捻ろうとした。


「明日話す……妹のことも」


 がっちり私の頭と肩をホールドしつつ告げるレイの沈んだ声音に、話しにくいことなのだと気付いた。


「レイ」

「………レティ、モフらせて」

「へ?」

「前言っただろ、褒美で」

「あ、うん、わかった!」


 私は素早くレイの尻尾を掴んだ。


「うあ!ち、ちがっ、俺が、俺が!」

「何も考えられなくなるぐらい良くしてあげるね!」


 力が入らなくなるらしく、レイはホールドの腕を弛めた。抜け出した私は、ズルリとベッドに突っ伏したレイの背中に頭を預けて横になり、尻尾をモフることに集中した。


「ほら、気持ちいいでしょ?ご褒美だよ。レイ君。あれ、これ私のご褒美だっけ?まあいいか」


「い、いい加減……俺に、モフらせ、あ!」

「明日なんとかするから、今だけは快楽で忘れていいんだよ。ひひ、さあイキなさい。快楽の虜となるがいい」


 レイは赤い顔をして、ぷるぷると体を震わせ私を睨んだ。


「お前、セリフだけ聞いたら、それ……ああっ」

「はあはあ、ありがとう、もう二度とできないと覚悟したモフりが、うっ、ありがとう!ほら、力抜いて……」

「俺をモフるなど、お前ぐらいだ……くっ、もうやめ」


 こうして私の耽美なモフりな夜は更けていった。(魔界編最初へ続く)


「わざとだろ、あう」

「何が?ここ、好き?」

「ああ!うっうう」


 尻尾の根元を指で擦ると、呻いて息を切らした。


「そういえば、レイは耳は普通だよね」

「はあ、はあ」

「ああ、半分人間だから?」

「……今気付いたのか」

「耳もあったら更にモフれたのにね。いや尻尾だけで十分だけど」

「ひ……」


 魔王の息子レイは、怯えたように息を呑んだ。






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