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君を我が手に3

 

「はい、ギル先生。レイは魔王ですか?」

「違います」


 昼食も忘れて探検しまくった私は、玄関で待ち構えていたギル兄に開口一番質問した。


 私は知ってしまったのだ。今、あつあつのドリアを食べさせてもらっている広い食堂が大きな城の中にあるのだということを。


 城の背後は高い山になっていて、城の正面から坂道が続いて下へ下へと街が広がっていた。そして、正面から見て左側には大きな河が、山から落ちる滝を源に街と森林を隔てるように流れていた。


 いや、城だよ。とても古そうな苔むしたレトロでいい感じな城だよ。内装は洗練されていてお洒落で、改装したのかなと思うけれど、何階あるかわかんない城だからね。


「正確には、まだ違います」

「え」


 ギル兄は、食堂の壁に凭れて私が一人座ってドリアを食べているのを憂い気に見ている。

 厨房には、一人だけ耳と尻尾のあるシェフさんがいて、私をニコニコ見ている。


「えっと、レイは、つまり?」

「………それ食べたら行きますよ」

「どこに?」

「説明するのダルいんで」


 ギル兄は私を見ては「この娘が……」と、複雑そうな表情をする。何だろうね、このいつまでも飲み込めないガム食べてるような曖昧な感じ。


「ご馳走様。美味しかったです」


 食器を出して礼を言ったら、シェフさんは少し驚いた顔をした。それから慌ててお辞儀をしてきて、こっちが驚いた。


 ゆっくりと歩くギル兄の後を私は付いていく。付いていけば、レイの所へ行ける気がしていた。


「あの方が帰って来たから、早くヒトを増やさなければなりませんね」


 ギル兄が言うように、城の中はヒトの気配がなくて、私はシェフさんしか見かけていない。でも、掃除はされていて荒廃してるわけではないみたい。


「………ギルさんは、このお城を守ってきたの?」

「まあ管理はしてました。いつでも主が帰ってきても良いように」


 淡々と言ったけど、300年だよ!

 どんな気持ちで、ずっと主を待っていたんだろう。


「魔族は本当に一途なんだね」

「何が?ああ、あなたにも人を付けましょう。やはり女性に身の回りのことを……」

「はあ」


 城の入り口近くは広間になっていて、私達が転移魔法陣でやって来たのもここだった。


 再び青い光に包まれて、私はそれをぼうっと見ていた。


「あなた、覚悟はあるんですか?」

「何が?」

「……………」


 ギル兄は、私を心配そうに見る。これはあれだ、私が心配なんじゃなくて、この子大丈夫?の心配だ。おお、久々な眼差し。


 光が消えたそこは、岩がむき出しの洞窟のようで、背後では滝が流れていて、そこが滝の裏なのだと気付いた。


 奥行きはあまり無くて、数百メートル行くと行き止まりだった。そこにポツンとレイはいた。彼は今のサイズに合った服に着替えていて、半袖の濃紺のシャツに黒のズボン、それに銀色の腰帯を着けていた。軽装だけど、どこかの貴族のような気品を感じた……黙っていたらだけど。


「レイ」


 近付いて、私はギクリとして足を止めた。

 最奥の壁に向かうレイは、壁に凭れるようにして立ったまま目を閉じるヒトを見ていたのだ。


「あ……ま、ま、ま」


 レイによく似た顔つき。黒いモフ耳と尻尾があって、右手には黒い抜き身の剣を携え、その体は金色の光に包まれていた。


 その光は、封印の光だ。


 レイはこちらに顔を向けたが、直ぐに目を反らした。それを見るや私は早足で彼に近づくと、その手を握った。

 安心させたかったから。


「よく…似てるね、レイのお父さん」

「………ああ」


 横顔が安堵の表情を浮かべるのを見て、こっちも緊張が和らぐ。

 私がどんな反応を示すか、レイは不安だったのだろう。


 だって目を閉じたそのヒトは、白亜様の気配のある封印術により18年封じられている魔王なのだから。


 封印の光に、空いている左手を伸ばしてみる。

 あと2年でこの封印は解ける、けれど……


「レティシア」


 低く静かにレイは名を呼び、握った私の手に力を込めた。


「………お前、封印を解けるか?魔族に封印術は解けない。俺では何もできない」


 どうだろう?あの白亜様の封印術だ。


「うーん、やってみないと、わからない」


 私の言葉に、レイは少し笑った。後ろでギル兄は「あなた結構チートですよ」と呆れたように言ったけど、あんまりおだてるとモフリますよ、あなた。


「できるなら、楽にしてやって欲しい。もう魔王の寿命は尽きているのだから……封印して命を永らえることに意味はない」

「寿命?」


 魔王を見つめるレイは静かだった。


「封印が無ければ、魔王は既に死んでいる。封印のせいで死んでいるのに、死ねない。だからもう楽にしてやって欲しい。人質だった俺は、もう解放されたのだから」


 驚いて見上げる私に真摯な目を向けたレイは、握った私の手を自らの額に当てた。

 私は、魔力の結界に守られていた『クロ』を、ふと思い出した。


 レイは悲しいというよりは淋しそうな表情で、そのまま私の手を唇に導いた。


「魔王も望んでいることだ。俺の亡き母の元へ行きたがっていたから」


 レイは言葉を区切り、私を窺うようにして慎重に話そうとしているようだ。


「俺の母……魔王の妻だった、13番目の聖女の元へ」

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