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君に決めた

 私が試験に合格?!


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 廊下に張り出された「合格者一名、深紅」の名を三度見してから、私は担任の先生の部屋に駆け込んだ。


「わたし!結界は消せなかったんですよ?!」

「歴代の聖女候補は、誰もできなかった。かくいう私も。しかし、結界の魔力吸収が僅かでもできたら合格だった」

「ええ?」

「これは白亜様がお決めになられたこと。覚悟を決めなさい」


 突き放すような先生に、私が本気じゃなかったことが見透かされているんだと気付く。


 覚悟、覚悟か…


「聖女になれるのは、名誉なことで皆の憧れ。ご両親もお喜びになられるわ。正式な認定式は、明日の午後に行われます」

「………」

「わかりましたか?」

「……はい」


 トボトボと部屋を後にしようとしたら、呼び止められた。


「待って。試験の内容は、今後口外しないように」

「どうしてですか?」

「秘密だからよ。ここを出て行く者達には、一部記憶消去の術を施します」


 そういえば、試験の内容は皆知らなくて驚いていた。

 毎回あれが最終選抜試験なら、どこかでその内容ぐらい漏れていても不思議じゃない。それが全く無かったということは不自然だ。


 つまり、聖女認定者以外の記憶を毎回消していたということか。

 秘密にするほど、あの獣は重要だということなんだ。


 頭の整理が追いつかずに、ぐるぐる考えごとをしながら自室へ戻ったら、橙はベッドに腰かけていた。


「………寝てなかったの、橙」


 口をきいてくれないから、返事は期待していなかった。

 でも…


「深紅、合格おめでとう」


 橙は、小声でそれだけ言うと、私に背を向けて布団を被った。


「だいだ…い」


 祝福されたというのに、なんて苦い気持ちだろう。


 私には、聖女になる資格なんてない。

 皆とは、心構えが違う。私は、聖女として魔王を封じるなんてこと夢にも考えたことはなかった。


 本当は、ちょっぴり恨んでいたんだ。聖女候補として、自分の意思も無視されて、家族と離れての暮らしを強制されて。


 そんな私が聖女?

 あまりにそぐわない。


 眠れずに、布団の中でそんなことばかり思っていたら、突然、けたたましい鐘の音が鳴り響いた。


「な、魔族?!」


 慌てて飛び起きた。橙も起きて、急いで寝巻きから制服に着替える。


 この鐘の音は、ここアテナリアの王都の城壁に魔族が侵入しようとしていることを報せている。


 聖女候補者の学校があるからか、魔族が群れを為して襲おうとすることがあるのだ。それらを退治するのは、聖女候補者と聖女認定者、それに神官や王都を護る騎士だ。

 日頃の修行の成果を発揮できる、またとない機会。


「急げ!城壁北だ!」


 先生の声に、聖女候補達は転送部屋に駆け込んで行く。

 神官の用意した転送魔法陣が、そこに常時保持されている。その魔法陣から、すぐに目的の場所に行けるのだ。


「しばらく襲ってこなくて静かだったのに。深紅?」

「……先に行ってて、直ぐに行くから!」


 頷いた橙が、部屋を走って出ていった。


 その背を見届けると、私は引き出しから紙を取り出し、短い文をしたためた。それを橙のベッドサイドの机に伏せて置いた。

 それから少ない荷物を肩掛け鞄に詰めると、部屋を出た。


 転送部屋とは反対の方向へと走った。


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