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聖女候補は、イヌ(悪魔)を飼う  作者: ゆいみら


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君と世界の片隅で

 

「そういえばギルさんは?」

「いろいろと用事を言いつけてる」

「ふうん」


 ワンコも偉くなったものだ。


 私とクロは、ディメテル国の城下町にいた。中級魔族の騒動が一段落した町は、倒壊した家の片付けや修理で、人の行き交いが多いみたいだ。


「………深紅」

「うーん、これはどうかな」

「俺は気付いたんだが……」

「うん、今度は金色のにしよう」


 アクセサリー屋でクロの首に小さな石を当てて、どれが似合うか考えていたのだけど、今回は瞳と同じ色にしようかな。


「……………それは魔道具だな。また俺を守る術を込めるのか?」

「ふふ」


 笑って誤魔化す私の手を掴んだクロが、深い溜め息をついた。


「俺は金がない」

「ん?」


 項垂れる彼は、いかにも情けないといった感じで唇を噛み締めた。


「よく考えたら、宿泊代から食事代、服や、その石だって全てお前の支払いだった!」

「今頃気づいたの?あ、これ指輪にする?」

「指輪?!い、いや待て、そういうのは男が贈るものだ」


 急にどうした。


 私は結局、金の魔道具をペンダントにしてもらった。


「クロ。今時、男がどうとか気にすることないんじゃない?クロは私のペットなんだし」

「そういう時だけペット扱いするなよ。俺の気持ちの問題だ」


 渋い顔のクロの首に、ペンダントを付けるために手を回した。


「まあまあ、モフモフ賃だと思って、ひひ」

「……………………」


 後ろから付ければ良かった。前からだと見えなくて付けにくいな。

 もたもたしていたら、クロが急に私の腰を抱き締めて密着するものだから驚いた。


「クロ?」

「……たまに本当に無性に舐め回したいな、くそっ、ぺろ」


 いや、ほっぺ今舐めてる。

 ううん、問題はそれじゃない。


「クロ君。ところでここ店内ですよ」


 されるがままに体を預けていたけれど、そう言うとクロは思い出したように、体をゆっくり離した。

 鎖骨の間に光る金の石。今は黒い瞳に変えてるけど、きっと本来の金の瞳に揃いでよく合うだろう。


 店内は客が私達以外にもう一人と店員さんが一人いて、ちらちらこちらを見ている。

 姉弟だと思ってるかな?思ってて、恥ずかしいから。


 会計を済ませて店を出ると、私はクロの手を握った。さりげなく握ったつもりだけど、やっぱりドキドキするなあ。

 握った手がピクリと跳ねて、それからそろそろと握り返してくれた。

 照れるので、ブンブンとその手を振り振りスイーツのお店へ突入。

 フルーツたっぷりパフェを食べてから、本屋に寄ってみた。


 クロと旅をしだしてからは、あまり本を読む余裕も無かったな。聖女候補の学校にいた頃は、よく眠る前に退屈しのぎに沢山読んでいた。あ、そうか、クロがいるから退屈しなかったんだ。


「これとこれはおすすめだよ。これは『ポケット魔物』略して『ポケまも』っていって、クロの召喚術みたいなのがでる人気の本だよ」


 召喚術なんて、この世にあったんだね。今更ながらクロの力、凄い!


「これはギルさんに渡して欲しいな。『騎士戦隊』とあとチュウニ病の本」

「………………」


 本を数冊買い込んで、王宮から出て宿に移った私は、部屋でクロにそれらを見せて一つ一つ渡していった。


「………ギルになら自分で渡せばいいだろ」

「嫌だよ、クロから渡して」

「……………何を考えてる?」

「……………クロこそ」


 私とクロはソファーに並んで座っていたが、互いの顔を見合って沈黙した。


「深紅、お前本当に何を考えてる?」

「クロ、何か私に言いたいことあるの?」


 問いを問いで返すと、クロは目を泳がせて頬を赤くした。そしてまた沈黙。


 何とも微妙な緊張感を振り払うように、クロの首に手を持っていく。


「あ」


 つつ、と魔道具の石を撫でると驚いたのかクロが小さく声を出した。口の中で詠唱を唱える。何の術かは内緒なので小さくボソボソと唱えながら、少しだけ触れるクロの肌の感触を楽しむ。


 クロは擽ったいのか身動ぎしていたが、ふと私の髪に目を止めた。

 ズルズルと闇が剥がれて、私の髪は再び赤い髪に戻った。詠唱を唱え終わるまで、クロは赤い髪を指で弄んでいたが、私が黙ると髪を見つめたまま言った。


「……指輪は……」

「さ、お風呂入ってこよ」

「あ、また!」


 クロが文句を言う前に私は立ち上がり、ちょっぴり迷いながら、むすっとする彼を見下ろした。


「クロ」

「何だ!?んむ」


 唇を押し付け、直ぐに離したら、クロはたちまち赤くなって黙ってしまう。


「明日、出発しよう………もうすぐ旅も終わりだね」


 自分の唇を指でなぞって、クロは俯いた。


「………ああ、もうすぐだな。それより俺も一緒にお風呂行きたい」

「なんか幻聴聴こえた」

「く……」


 揺れる金の石を少しだけ見て、私はお風呂へ行くためにクロに背中を向けた。

 俯いたクロの唇が弧を描いていたのは気のせい、だよね?


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