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君しかいらない5

 

 女子だけの学校が、清純なイメージで見られることはあるよね。

 私の10年いた聖女候補達の学校も女の園ではあった。先生も聖女だし、男性は庭師のお爺ちゃんぐらいだった。


 規則も厳しくて、外出は授業以外は許されることもなく、まして男女交際なんて、どこで知り合うの?みたいな感じ。


 カイン達神官が、翡翠が人気票とか言っていたように、たまに授業で顔を合わしたり、噂で美人とか言われたりするような神官と聖女の間のやり取りは、ごく稀にはあったけど恋人に発展するほどの時間はなかった。


 でも、聖女も女の子。年頃になると、そういう話はするもので、こっそり恋愛小説が回ってきたり、男女のあれこれについての話をし合ったものだ。そういえば一部の女子は、男同士の恋愛の絵物語を見てたらしいけど、私もこっそり……読んだなあ


 そんなわけで経験無いのに、知識だけは豊富だったはず。でも、いざ自分の恋愛となると分かんないものだなあ。まるで鈍すぎて周りの好意に気付かないアホヒロインを体現していた。


 だから一年前の自分に言いたい。


「イケメン魔族と恋愛するけど、気を付けてね。最初幼児の姿してるから、うっかり一緒にお風呂入らないでね。そして早く気づけよ。それから、迫られるとやっぱり最初は怖いものだわ」と。


「余裕ね、深紅。考え事かしら?」


 黒髪を束ねて、鎧を身に纏った王妃が隣で笑った。

 その後ろでは、ずらりと隊列を組んだ騎士達がボウガンのような物を空に構えている。


「いえ、癖なんです」


 私は言いながら、空中を飛ぶ中級魔族を見ていた。見ながら、詠唱を唱え始めた。


 夕暮れの空を三匹の竜がぐるぐると飛び回っている。


「あら、今日は三匹だけね。数は把握できていないけれど、もう少し多かった気もするから油断しないで」


 そう言って、間合いを測った王妃が、目付きを険しくした。手を高く上げると、騎士達のボウガンが一斉に一番近い竜に照準を合わす。


「構え!…………………撃てぇ!!」


 王妃の合図で、バシュバシュと乾いた音と共に竜に向かう矢は、しかし当たることはなかった。翼を広げた赤い竜の中級魔族は、10メートルはあるだろう巨体で風を起こし矢を跳ね返した。


「やはり風魔法!」


 事前に伝えられていたので、私は驚きはしなかった。跳ね返った矢が、こちらへ向かって来るのを結界で防ぐ。


 狙われた竜と他の二匹が、私達を邪魔者と認識したのか、揃って飛んで来る。


「来るぞ!堪えよ!」


 王妃の注意が何のことか僅かにわからなかった。竜達がそれぞれの体の周りに風を纏い、渦巻く疾風となったそれを見た時には、結界がギシギシと唸りを上げて疾風に押されている。


 私は自分の結界を後回しにして、騎士達一人一人に張っていた結界が解けそうになると、張り直す作業をした。


「それはよい。周りを守るな、攻撃に集中しなさい!」


 あの妖艶な王妃とは思えない厳しい表情で、彼女は身を低くして風に耐えながら腰の剣をすらりと抜いた。


 私が拘束の詠唱に切り替えると、疾風に耐えきれずに結界の解けた騎士が次々と後ろへ吹き飛ばされていく。


「縛れ!」


 唱え終わった時、竜が一匹空から落ちてきた。

 そこへ騎士達が再び矢を放つと、今度は過たずその体へと突き刺さる。


「とどめを!」


 走り寄り、翼を踏みしめて喉を切り裂いた王妃の体に竜の血が降りかかる。

 断末魔の悲鳴が途中から消えた。

 私が、それに気を取られていたら、他の竜の疾風に結界を解かれてしまった。


「あ、きゃああ!」


 体が浮かんで吹き飛ぶ。どこかでぶつかるだろう衝撃にぐっと目を閉じると、後ろから柔らかく受け止められた。


「……あ」


 お腹に回る力強い腕から、体を捻って振り返ると、思った通りの金色の瞳とぶつかる。さっきのことを思い出し、その体温にドキリと心臓が跳ねる。


「クロ」

「……下がってろ」


 膝を抱えたまま動かないクロを、私は見放し部屋に置いてきていたんだった。


「クロ、良かった。やっと正気を」

「………鳥野郎」


 低く呟いたクロの体から、黒い魔力が噴き出した。一瞬視界が闇に染まり、私が吸収した魔力が元通り以上にクロに蓄積されていることがわかった。


「よくも邪魔をしてくれたな」


 ゆらりゆらりと肩を左右に揺らすグレた歩きで、クロは空を飛ぶ竜を、かつてない殺気を膨らませ睨んだ。


 そして大声で宣った。


「せっかく!ようやく!今夜はイチャイチャラブラブしまくって、髪振り乱して喘いで鳴く深紅を堪能して気持ち良いこと朝までしまくろうと決めてたのに!俺の!期待と計画を台無しにしやがって!くそっ!一舐めしかできなかっただろうが!返せ!甘さを返しやがれ!!!」


「うきゃあああ!いやあああ!バカクロ!大声で何言うのお!バカあああ!」


 私は耳を押さえて、クロの言葉を打ち消すように叫んだ。正気を失ったクロは、それすら聞こえていない。


「殺す!殺してやる!この世から一匹残らず!駆逐してやる!!」








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