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君しかいらない4

 ここで疑問が一つ。


「クロ君、君は同じ魔族として、私とかが中級魔族を倒したりすることをどう思ってるの?」


「はあ?俺が同族意識で怒ったりするとでも?では聞くが、お前は家畜を俺とかに倒されて怒るのか?」

「あ、そういう感覚ね」


「それで……何をしてるんだ」

「治してるよ?」


 私は朝方、国王からの依頼を受けてからその足で病院に繰り出していた。


「はい、治ったよ」

「ありがとうございます」


 女の子の骨折した足を治癒して、隣に寝ているお爺ちゃんの怪我を治す。皆の怪我は、倒壊した家の下敷きになったり、突風で転がったり飛ばされたりしたのが主だった。

 私は中級魔族の討伐を明日にして、今日は人々の治癒のために病院を回ることにした。

 治癒行為の許可は、朝の内に取り付けてある。


 ついでに王妃様の足の傷を最初に治そうとしたら、

「いやん、治したらダーリンに痛いの痛いの飛んでけしてもらえなくなっちゃう」

 と、謎の抵抗をされて国王様に説得してもらって治したんだよね。


 クロは「もうこの女葬りたい」って言ってたけど、それはやめて。


「深紅」

「んー、はあい、治りまちたよ」


 擦り傷だらけの赤ちゃんを治癒していると、クロに腕を引かれる。


「明日、魔族の討伐に行くってのに、何やってんだ?」

「はあ、赤ちゃん可愛い……ん、治癒だよ」

「それは、見ればわかる」

「クロ、退屈なら私に付き合わずに、先に戻っていたらいいんだよ。あと2つほど病院回るから」


 もう何人治したっけ?気がついたら、窓の外は夕暮れの色を濃くしていた。


 痺れを切らしたように、今度は強く腕を引っ張られて、ムッとしてクロの方を振り向いた途端に、目眩がした。


「あ、れ…?」

「ほら見ろ!」


 屈み込んで、私を掬うように抱きかかえると、クロは踵を返した。


「待って、まだ怪我人が…」

「もう十分だ」


 起き上がろうとする私を捕まえ、クロは高速で王宮の客室に帰ると、私をベッドに寝かせた。横になると、急に体がだるくて、疲れが押し寄せる。


「本当にお前は」


 怒ったような声音で、クロはテーブルの上の水差しの水を口に含んだ。


「ク、んむ!?」


 覆い被さってきたかと思ったら、クロに口移しで水を飲まされて驚いた。

 いや、一人で飲めるよ!


「ん、ごく、んぐ」

「ん、ちゅ……」


 私の顎を伝う水を、クロが指で拭う。


「は、あ、クロ」

「……わからない、なぜだ?」


 そのまま私の頭を抱いて、クロが額を付き合わす。


「何?」

「聖女の地位を捨ててまで俺の封印を解いたり、他人の為にヘトヘトになるまで治癒したり、命の危険がありながら俺や家族の為に無謀な討伐の依頼を受けたりして、お前自身に何の得がある?」


 うーん、クロの封印を解いたのは私利私欲?の為が大きかったかもしれないな。でも、今は…


「じゃあ聞くけど……クロが私だったら、私がクロの立場だったらどうする?」

「…………」


 ピンとこないのか、考え中で押し黙るクロに苦笑する。


「今のクロなら……私が縛られて封印されてたらどうする?」

「ああ、成る程」


 納得したクロが、にやりと笑った。


「いい絵面だから、そのまま観賞するのもいいな」

「コラ」

「でも、飽きそうだ。封印を解いて話がしたくなりそうだし、そしたら、こうして触りたくなるだろうな」


 寝転んだクロが、私を腕にしまう。


「それに、そいつのことが沢山知りたいし、一緒にいたいと思うようになって……」

「うん」


 私の頭を胸に抱えて、髪に顔を埋めたクロが小さく言った。


「そうしたら、好きになってて…失わない為には守らなくちゃならなくて…ああ、そうか…」

「そうだよ、これは全部自分の為なの。怪我をした人を放っとけないのも、治癒の力を持つのに使わなかったら、そんな自分が嫌になるからしてるだけ。クロを守りたいのも、クロといたいから…だから」


「深紅」


 するり、と私の頬をクロの手が包む。

 顔を上げると、熱っぽい金色の目に射抜かれる。


「お前は、俺の魔力を吸収して影響は無いのか?その…身体が弱まるとか、逆に体力が回復するとか」

「………特には無いよ。あんまり吸収すると、こうクラクラするっていうか、身体が満腹なような感覚はあるけど」

「そうか」


 どこか安心したような表情で、クロは私に顔を近付ける。


「俺はお前が望むなら、この魔力を全てお前に流し込みたい。可笑しいことを言ってるのはわかってるが、お前が俺の一部を取り込むことに……喜びを感じる」

「く、クロさん?!」


 驚く私の唇に、啄むようなキスが落ちた。


「……お前は俺と一緒にいたいと言ったが、俺は一緒にいるだけじゃ足りない。もっと俺をあげたいし、お前が欲しい」


 そう言うと、クロはまた唇を合わせ、私を食べるような深いキスをした。


「あ、はう、んん」


 息苦しくて酸素を求め、合間に大きく呼吸していたら、襟元のボタンを素早く外されて目を見開く。


「な?!」

「なあ……俺の魔力を取り込めよ」


 自分の上着も脱いだクロが、私に肌を押し付けるようにして被さる。


 肌が触れ合う。


 その心地良さに呆然としていた私は、クロの体を見て、はっと我に返った。


「く、クロ、まだ子供、体、子供」


 忘れていたのか、クロは目を瞬きして少し考えて、また私を抱き締める。


「多分可能だ」


 何が?!

 ドキドキして、わたわたする私を、甘い表情のクロが見つめる。


「俺を命に代えても守りたいなど言うから……くそ、可愛い」

「く、クロ、様?!」


 今なんて?!私、何かクロのスイッチ入れちゃったの?

 さすがに……さすがにわかるよ、クロが何したいかって。

 イヌとして見なくなってから、私も意識してるからね。でも、この姿のクロとは……背徳感が凄い。


「ハアハア、俺の魔力、吸い取って」

「変態みたいだよ!」

「イヌだからな」


 平然と言って、ちゅう、と私の首を吸い上げて、思わず宙をかく腕を捕らえられる。


「あっ、ええっと!待って、私がムリ!疲れてる!明日があるの!」

「ハア、ああ、それは俺が」


 言いかけて、クロは眉をしかめて顔を上げた。

 直後、複数の警鐘が大音量で鳴り響き、ただならぬ雰囲気に慌ててクロを押し退けて体を起こした。


 部屋の外が騒がしく、私は急いで服を直してクロを振り返った。


「クロ、中級魔族が下りて来たの?!」


 気配に敏感な彼に確かめると、クロはベッドの上で膝を抱えて顔を突っ伏していた。


「……許さん。邪魔しやがって、バカ魔族が……もう少しだったのに」

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