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君を喰らい尽くしたい

 

 高すぎず低すぎず、すっと通った鼻。やや薄めの形の良い唇。長い睫毛から覗く金色の宝石は更に輝きを増し、それが私を映していた。


 急な成長に耐えきれずに破れた服の破れ目から、程よい腹筋や固い二の腕が見えて、ドキリとする。男の子だと意識してしまう。


 突然のことに驚いたが、これは今までの経過から予想していたことだ。荷物を開け、用意していたサイズの大きい服を渡すと、ちょっぴり恥ずかしそうなクロは、岩場の陰で着替えて、また私の隣に座り直した。


 グレーのシャツに濃いブルーのズボンが、ラフだけど良く似合う。多分、何着ても似合うんだろうな。


 背は私と同じくらいになり、いきなりすぐ横に並んだクロの顔に、私はなんだか気恥ずかしかった。


「………クロ、大きくなったね。凄くカッコいい」


 ストレートな感想を述べたら、クロは自分の顔やら手足に触れて確認して、満足そうに口角を上げた。


 そんなクロに見とれてぽうっとしていたら、赤い髪を一房指に絡め、クロは眩しそうに目を細めた。


 夕焼けの赤が、私の髪を真っ赤に燃え立たせる。自分の髪を見て、あまりにも鮮烈な色彩に手で髪を隠そうとするのに、クロはそれを許さない。

 絡めた髪を眺めて、そこに唇を近付けるのを見て、今までよりもドキドキが強くて戸惑う。


 だが、寸でのところで止めたクロが、気配に眉をしかめた。


「……綺麗な夕焼け。君の髪が際立って一番素敵に見える時間だね」


 青年の落ち着いた声が降ってきて、私はそのセリフに記憶を揺さぶられる。


「カイン?」


 私達の傍に佇む男性に、思わず立ち上がる。クロの手から真っ赤な髪がするりと逃げていった。


「久し振り、何年ぶりかな」


 照れたように微笑む、少しだけ垂れ目がちな茶色の瞳。金がかった茶色の前髪がさらさらと風に靡く。


「……カイン」


 懐かしさが込み上げる。私が口許を覆っていると、カインが真っ直ぐに私に近付いて手を差し出した。


「髪、約束通り伸ばしてくれたんだね。凄く可愛いよ」

「ふええ、カイン……」


 心許した同郷の友人が、とても優しく微笑むので、私は気が緩んで泣きそうに…いや、泣いてた。


 顔を覆っていたら、私の頭を背の高いカインが撫でた。そして私の肩に手を置き、誰にも聞こえないように耳元にそっと囁く。


「--ティ、君を忘れたことはなかった」


 久しく呼ばれなかった真の名に、思いもよらず心が暖まる。


「わ、私もだよ。髪を見てもらおうと、思って」

「うん、凄く綺麗だ。顔もね」

「昔からそうやって、口がうまいんだから」


 涙目でクスクスと笑いあっていたら、腕を強く引っ張られた。放っておいたから怒ったのかな。


「クロ、ごめんね」


 冷たい表情のクロは、私をカインから引き剥がそうとする。


「……………この子が、あの魔族だね」


 カインがクロに目を向け、笑う。

 一見、優しそうな笑顔なのに、ひやりと背が寒くなって首を傾げる。


「もうすぐ日が暮れるし、宿でお話しようか?……深紅」

「うん、たくさん話したいことがあるんだよ」


 言いながら、いつものようにクロの手を引こうとして伸ばした手を止めた。

 クロは、そんな私を見て、手を空振らせた。


 こんなに大きな子の手を握るのは違和感があった。


「あ、クロ、ごめん。つい小さい子にするみたいにしそうになって…」

「……………」


 手を引っ込めたクロは、苛立たしげに私から顔を反らして、前を歩くカインの背中を睨んだ。


 私は、そんなクロの横顔をそうっと盗み見た。


 子供とは呼べないが、大人でもないクロにどう接したらいいか分からない。

 それにやけに胸がドキドキして落ち着かない。


 何となくは分かっていたんだ。イヌとして見るには、もう無理があることを。


 握れなかった手を軽く振り、不機嫌なクロの隣を並んで歩いた。





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