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君惑うことなかれ4

 

 夜になるとミスラムは、セリエ様の隣で眠ると駄々をこねた。

 不安なのだろう。眠り続ける祖母の顔を見て、隣に潜り込んでいた。


 明日ここを去ろう。二人の間の時間を妨げてはならない気がした。


 ************


 夜中、私は目を覚ました。


「…ん……クロ?」


 私の隣でクロは先に起きていて、耳を澄ますようにしてじっとしている。

 遠くの方で、人の声が聴こえた気がした。

 起き上がった私は、窓の外をガラス越しに覗いてみた。


「何?」


 薔薇の庭の方角、館の塀の辺りに明かりのようなものが見えた。それが幾つかばらばらと忙しなく動いている。


「ちっ」


 舌打ちに横を見れば、クロが不快そうに眉根を寄せて外を睨んでいる。

 その時、大きな足音が聴こえて、強くドアをノックされた。


「リリィ殿、おられるか?」


 急いで開けると、この前馬車を護衛していた男が、余裕の無い表情をしてドアの前にいた。


「魔族が館に侵入しようとしています!館はセリエ様の結界で常に護られていますが……魔族の中に上級魔族がいるようで、結界を破られるのは時間の問題かと」


「直ぐに行きます!」


 聖女候補として魔族を前にした時は戦うことが身に染み付いた私には、他に選択肢なんて思い付かなかった。


 男性が先に行くと告げて、走り出したのを見ることもなく、私はワンピース型の寝衣の上に、急いで上掛けを羽織ろうとそれを引っ掴んだ。


「きゃ!クロ!?」


 上掛けを持った手を、クロがいきなり引っ張った。強い力で引かれて、ベッドの上に倒れこむ。


 文句を言おうとしたら、私の肩を押さえて部屋を指差す。


「………ここにいろってこと?」


 いつの間にか普段着に着替えたクロは、面倒臭そうな表情で部屋を出ていこうとする。


 それを見て、考えるよりも先に追い縋り、クロを後ろから抱きすくめた。


「行かないで、クロ」


 さっきから、クロはいたって冷静だ。それが不安を掻き立てる。


「クロ、侵入しようとする上級魔族を知ってるのね?」


 こくりと頷くのを見て、焦りが増して強くクロを抱き締める。


「迎えに来た、とか?」


 私の手を軽々と剥がし、クロは私を振り返り口を開こうとした。


「し…んんっ?!!」


 何か言う間を与えずに、私は頬に手を添えて、その口を自分の口で塞いでしまった。

 発しようとした言葉が吐息となって、私の口に入り込む。


 驚いて私の腕を掴んだクロの手が、力が入らずにズルズルと下りていく。


「………はあ」


 唇を離して、僅かに息を継いで再びキスすると、びくりと身体を震わせたクロは、今度は私の頭を掻き抱くと、更にねだるように自ら唇を押し付けてきた。


 時間にしたら数十秒だったと思う。長いような短いような心持ちで唇を離すと、とろんとしたクロの金の瞳が私を見つめていた。


「………キスしたら、許してくれるんでしょ?だったらお願い、ここにいて。まだ帰らないで」

「…………………」


 口元を片手で隠して、赤い顔をしたクロは、堪えるように目をぎゅっと瞑った。


「急いで戻るから、ここで待っていて。でももし、私が戻って来なかったら…」


 上掛けを羽織り、もう一度だけクロの頬にキスを落とす。


「魔界に無事に帰るのよ。アテナリアなんかに捕まらないでね」


 そう言うや、ぼんやり突っ立っているクロを背に、部屋を飛び出し駆け出した。


 咲き誇る薔薇に視線を向ける暇もなく、庭の端までやって来たら、確かにセリエ様の結界を目視できた。


 その結界の外に、中級魔族を率いるように男が一人立っていた。


 肩にかかる黒髪を括り、気難しそうな顔の男には、ケモ耳が付いていた。


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