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君と共に5

 

「……う…ん?」


 目が覚めると、ベッドにうつ伏せで寝ていたことに気付いた。同時にいつも隣に感じるモフ尻尾が見当たらなくて、いきなりどっと不安が押し寄せる。


「クロ!?」


 手でパタパタと探すが、どこにもいない。手を付いて起き上がろうとしたら、ズキッと背中が痛んだ。


「いっ?!いたっ」


 そういえば闘った時に打ち付けたんだった。痛みで息が詰まる。


「クロ……ク、ロ!」


 部屋のドアがカチリと開く音がしたが、痛みで見ることができない。半泣きで呼んでみる。


「ふえっ、クロぉ」

「ワウ!」


 私の視界に回り込んだクロが、テーブルにご飯を置いて早足で近付いてきた。

 必死に手を伸ばすと、そのままベッドに上がって来て座り、飛び付く私の頭を抱えてくれた。


「ひ、一人になったかと、思った」


 クロのお腹にしがみついて、グスグス鼻を啜る。

 だが、クロの身体に回した手に直ぐに違和感を感じて、少し離れて確認してみた。


「あれ?クロ、また大きくなったの?」


 背が伸びていて、10歳ぐらいだろうか。幼児から少年に変わり、顔もあどけなさが消えて凛々しさが増している。


 彼の頬に手を当ててみると、クロはくすぐったそうに目を細めた。

 その表情に見とれていたら、ふいに思い出した。


「……クロ、ごめん」


 そろりと痛みを庇いながら、今度はなんとか起き上がれた。クロに向かって座ると、私は手を付いて土下座した。体を倒すと、ズキンズキンと背中が引きつるように痛む。


「ワ、ワウ?!」

「く、クロ、い、いたっ、無理やり服従の術を使って……つうっ、ごめんなさ、い」


 堪えて声を振り絞ると、見かねたのか私の背に腕を回して支えるようにして起こそうとする。


「……ごめんね。私、クロがいなくなるかと……不安で、っぷ」


 私の口をクロの手がぽふっと覆う。もういいとばかりに、クロは困ったように首を振った。


 怒ってないのだろうか。私は謝っても、術を解術する気は無いのに。


「むぐ、うう、ふ」


 まだモガモガ言ってる私の口を押さえたまま、クロは私の手足の傷を片手で指差し、背中に触れた。


 治せということだと分かり、頷くと口を覆う手が外された。


 蔦に絞められてアザのできた手足も痛いが、打ち付けた背中が一番痛む。


「クロは、怪我はない?」

「ワウン」


 成長までして、平気そうだ。

 上体を起こして座り直すと、被るタイプの上の服の裾を持つ。だが、痛くて服を上げることができない。


「う…クロ、脱がして」

「!」


 ババッとクロが私の背中に素早く回り、対照的にゆっくり私の服を捲ってくれた。自分では見えないので、後ろに手を回してみる。


「ここらへんかな、クロ?」

「……………」


 ツイッ、と暖かいクロの手が私の背中の中心から腰近くまでを伝った。大判のガーゼで覆われているようだ。


「ん、アザになってるかな」


 治癒の詠唱を唱える。


「傷付いた肉体に、癒しを!」


 スウッと痛みが引いて息をつく。それを見計らい、無言でクロが背中のガーゼを取り去る。


「はあ…クロ、ありが、と?」


 背中に、ふいに押し付けられた柔らかい感触に、しばし考える。振り向くと、クロはまた唇を舌で舐めて薄く笑っていた。


「………何かした?」

「ワン」


 気のせいかな。


 気を取り直して足首を治癒し、最後に手をよく見てみたら、手首のアザ以外に切り傷がたくさんできていた。


「あ、そうか。クロの……」


 デュークさんに攻撃しようとしたクロの魔力を受け止めた時の傷だと気付いた。


「……グル」


 その傷を見つめ、クロは痛そうな表情をした。私はそれを見て、つい笑ってしまった。


「クロが付けてくれた傷なら、治さず大事に残しとこうかなあ」


 冗談っぽく言ったら、クロが目を丸くした。

 私に傷を付けたからといって、クロが罪悪感を感じるのは、おかしい。

 だって、私の方がクロに酷いことをしているんだから。


「……ねえクロ、舐めて」


 私が両手を差し出すと、クロは固まるように動きを止めていたが、やがて応えて私の腕を持った。


 ペロリ


 微かに沁みて、身動ぎする私の手の傷を遠慮がちに舐めていたが、やがて森の時のようにクロは夢中で舐めて、息を荒くした。


 私は、クロの赤い舌が舐めた所を追うようにして、ゆっくりと少しずつ傷を治癒していった。

 這い回る暖かく柔らかな感触が、全ての傷が無くなった腕を名残惜しげに、さ迷う。


「………クロ、ほら、舐めてくれたから傷治ったよ」


 クロが気負わないように、私はそう言って笑った。


 そんな私を、ようやく顔を上げたクロが呆然と見つめていた。

 馬鹿な子ども騙しをしたと思って、気まずくなって誤魔化すように括っていない髪を弄る。


「…キュウ」


 可愛らしく鳴いたクロに、ちらっと目を向けると、彼は綺麗な顔を歪ませて唇を噛んだ。


 それから、身を乗りだし膝を付いて、私の頭を引き寄せると両手できゅっ、と抱き締めた。


「クロ?」


 ドキンドキン……


 クロの胸に押し付けられた私の耳に、人と同じような鼓動が聴こえた。


 魔族の鼓動は、人よりもかなり速いようだ。




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