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君と共に3

 

 私は緊迫した場面になると、考え事をしてしまう癖がある。どうでもいいことを考えて、不安や緊張感から逃れようとしちゃう。先生にも指摘されたんだよね、注意力散漫になるからって。


 私の体から、白いオーラが立ち上る。


 油断してクロを危険な目に遭わせた後悔と怒りに、握った拳が震える。


「よくも!」


 詠唱を唱えようとしたら、巨体に似合わないスピードで『ヨルさん』訂正『へび』の尻尾が私目掛けて振り下ろされた。


「くっ、う」


 結界に守られて無事だが、そのまま地面にめり込むような圧力が掛かる。両手を突き出して結界の維持を図るが、へびがぐねぐねと私を潰そうとのし掛かってくる。


 その間にも、クロ達はぎりぎりと締め付けられていて、私の張った結界が潰されかかっている。


 詠唱には時間がいるし、結界が消えたらクロ達はすぐに潰されてしまうだろう。


 一旦下がったへびが私を見据えると、シュル、と周りの木の間から蔦が伸びてきて、私の結界に這うとぐるぐると巻き付いてきた。


「樹木魔法!?」


 魔族の中でも上級魔族やレアな魔族だけが行使する力。ヨルムンガンドは、樹木魔法を使えるらしい。


「……クロ」


 蔦に覆われた結界が引きちぎられて、衝撃で私は壁に背中を打ち付けた。腕や足に蔦が絡み付く。


 私が目を向ければ、へびの頭の後ろで巻き付かれたままのクロと目があった。私の術の中で、今最短の詠唱を唱える。


「我、服従の術を解き、彼の者に自由を与えん」


 解くのは簡単。解術を与えたクロの金色の目が鮮やかさを増して、驚いたように見開かれる。


「クロ、私のイヌから解放する。本来の魔族の力を振るうことを許すわ」


 両手を蔦に頭上で縛られて、吊るされるような形になって私はクロを見つめた。


「グ……あ?」


 体から黒いオーラが勢いを増し、クロは驚きをすぎると、にっと邪悪に笑った。


 とぐろから自分の片手をずぼっと引き抜くと、その手に闇の魔力がわだかまる。それは大きな爪の形を取り、軽く振りかざして下ろすと、へびの身体がブチリと両断されてしまった。

 どす黒い血がドバッと吹き出し、地面を大量に流れて行く。その中に、クロとデュークさんが降り立った。


「ごほっ、げほっ、嬢ちゃん!」


 膝を付いて咳き込むデュークさんの後ろから、悠然とクロが私に向かって歩いてくる。


「……ク…」


 吊るされたまま、呼び掛けて黙る私を見上げたクロは、私の手首と足に絡み付いた蔦を魔力で枯らす。


 プツン、と途中で蔦が切れて落下した私を、クロは片手で抱き止めた。

 子供の力ではない、軽々と私を抱えるクロの腕を腰に感じて私は緊張に身を固くした。


 肩に担がれている格好でクロの表情はわからない。


 ……………遂に下剋上か


 観念して、クロの背中に垂れ下がっていたら、前方に半分こになったへびが見えた。


 よく見たら、うねうねと動いていてへびはまだ生きている。分断された胴体がぐねぐねしながら互いに寄ると、ピタッと引っ付いた。


「うわっ」


 デュークさんが、気持ち悪そうに顔をしかめている。

 再び元に戻ったへびが、何事もなかったように金色の目で私達を捉えると、唐突に地面から木の枝が突き出した。


 剣で薙ぎ払ったデュークさんが、追いかけるように何度も突き出る枝から走って逃げる。


 クロの足元からも、地面を割るようにして枝が飛び出てきた。

 それをクロは私を担いだまジャンプして避けると、魔力を操り、へびの目を切り裂く。


 その間詠唱を唱えていた私は、クロの背中越しに術を掛けた。


「動きを止めよ!その身を地に伏せよ!」


 へびの動きが止まったところを、デュークさんがもう片方の目を剣で突き刺す。


 シューシューと口から悲鳴ともつかない鳴き声を上げ、へびが身を揺らす。


「クロ、下ろして!」


 腰に回る手を掴んで体を起こすと、クロはへびから離れたところに私を下ろした。

 ひょいと私の手首を掴み、絡み付いたままだった蔦を引きちぎった。無言で足首の蔦も同じようにちぎると、痕のついたそこをつつ、と親指で撫でた。


 次の詠唱を唱えていた私は、いやに丁寧なその撫で方に動けずにいた。俯いたクロの唇が弧を描いているのだけが見えた。


 地面や天井から縦横無尽に蔦が現れて、私達に群がろうとする。

 長い詠唱に蔦を見つめるしかない私の前からクロが離れる。


 デュークさんとクロが蔦を切りながら、へびに近づく。

 足に蔦を絡ませたまま、デュークさんは動けないままのへびの首に剣を突き立てた。

 クロの魔力がぐるぐるとへびの胴体に巻き付き、彼が開いた手をぐっと握り込むと同時に魔力がへびを絞め付ける。


 ばたんばたんと苦しむへびだが、再生能力が強いらしく弱る気配がない。デュークさんが攻撃を繰り返すが、傷が直ぐに塞がっていく。


「こいつ、ぜいぜい、キリがないぞ!」


 中年のデュークさんの体力の方が削られている。

 クロは淡々と蔦を切り、へびを切り裂く。


 私に向かおうとする枝を瞬時に枯らして、クロが振り返る。

 目が合った時、私の詠唱は唱え終わった。


「我は命じる!我が意志、我が生命により、彼の者、その身の時を止めよ!」


 ゆらゆらと私の赤い髪がほどけて波打つ。突き出した両手に白いオーラがたゆたい、指先から糸のように放たれた。


「封印!!」


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