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君と共に

 

「デュークさん、本気で狙ってんだね」

「おう、まあな」

「デュークさん、もしかして結構強い?」

「おいおい、リリィちゃん、伝説級のヨルムンガンドを狩るんだぜ。自信が無いとこんな森に入らないだろ」

「そうだよね」


 他愛も無い会話をしながら、デュークさんと並んで歩いている。

 森は益々深くなり、薄暗さも増していく。地図とコンパスとほぼ一本道なのを便りに進む。


「でも出くわさないかもしれないな。こんなに分かりやすい道だし、迷う心配も無さそうだ」

「だね」


 またおんぶしようとしたら嫌がったので、クロは自分で歩いている。私達の先で尻尾を立てて、深刻な表情をしている。


「クロ、リラックス、リラックス」

「ギャウ!」


 イラついてるみたい。

 魔族であるクロが、私達より警戒してて何か可笑しい。


「リリィちゃんは、何者なんだ?この森のこと知ってて入るたあ、度胸あるじゃねえか」

「う…ん。私は…」


 迷ったが、大した作り話も思い浮かばなかったので、私は正直にデュークさんに理由を話した。


「………なるほど」


 前を行くクロを見て、デュークさんは何か考えるように無言になった。

 私は責められるんじゃないかと身を固くしたが、肩を軽く叩かれただけだった。


「嬢ちゃん、名は?」

「深紅……だよ」

「それが聖女名ってやつだな。で、本当の名は何て言うんだ?話からして、リリィは偽名だろ?」


 クロが立ち止まった。私はその小さな背中を眺めて緩く首を振った。


「デュークさん、ごめんなさい。本当の名は、いつかクロに最初に教えるつもりだから言えないの」

「何だ、そりゃ」


 デュークさんは、困ったように笑った。振り向いたクロが私を見るので、頷いておく。


「嬢ちゃん、聖女のくせに魔族たらしだな」

「たらし?」

「さっきといい、そうやってずっとこの魔族を口説きまくったんだな」

「ペットに愛情を注ぐのは、飼い主として当然だよ。クロは世界一大事でラブリーな仔だもんね」

「ははっ、相手はどう受け取るかな。なあ……クロちゃんよお」


 デュークさんは、ぎっと睨んでいるクロを見下ろした。


「お前さん、既にだいぶ勘違い起こしてんだろ?」

「グルルルルル」


 唸るクロは、なんだか悔しいような腹立たしいような表情で、視線を泳がす。


「お前さんにしたら、この娘っこはインパクト大だったろ?長い間閉じ込められていた所から自由にしてくれた上に、聖女人生捨ててお前さんを護って、可愛らしい娘っこが毎日毎日口説き文句を注ぎまくったりしたら、グラッとなっても不思議はないねえ」


 デュークさんは、クロの反応を楽しんでいるようだった。くくっと笑う彼が、小動物を苛めてるように見えた。或いは、子どもを苛める悪いおっさん。


「デュークさん、クロを苛めないで!」


 二人の間に割って入り、後ろからクロを抱き締める。


「クロ、勘違いじゃないから!私、クロが大好きだから!本気だから!」

「……………キュ、キュウン」


 両手で目の辺りを覆ったクロが、弱々しく鳴いた。


「……勘違いなのは、嬢ちゃんだな」


 デュークさんは、溜め息を吐いた。


 ふと前方を見ると、広く拓けた場所になっていた。巨大な木々がぐるりと根を張り、円形のホールのようになっていて向こうの端が遠すぎて、ぼんやりとだけ見える。


 高い高い天井は、巨大な木々の枝と葉で覆われて、僅かに開いた隙間から、一部だけに日光が射している。


 圧倒されるような巨大な天然の空間に、目を奪われた私はクロを抱いたまま天井を見上げて、遠くから真上の方に視線を移した。


「…………ねえ、デュークさん」

「ほお、こりゃすげえな…何か言ったか、深紅ちゃん?」

「……パーティー組んだことある?」

「いや、俺は単独が好きなんだ」

「じゃあ、初だね」

「何が?」


 腕の中で、クロが低く唸り出した。尻尾を立て、全身から黒いオーラが立ち上る。


「デュークさん、魔物ハンターと聖女と上級魔族のパーティーって凄い面白い組み合わせだね!」

「何だって、あ!んなっ?!」


 真上に気付いたデュークさんは、口をあんぐり開けたまま、反射的に後退するや剣を抜いた。


 距離を取って、下ろしたクロの横で私は帽子を脱いで地面に落とした。


 天井を伝う枝と枝に紛れて、とてつもない巨大な蛇型のスペシャルでレアな中級魔族『ヨルムンガンド』がぶら下がって、その鎌首をもたげていた。



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