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君が必要6

 

 おじさんが振りかぶった剣を、クロめがけて素早く下ろす。

 それを後ろに避けたところを、横手に薙いだ剣が襲う。


「クロ!」


 ぱっ、と身軽に跳んで回避したクロが、その手に魔力を練る。黒い渦のような魔力がわだかまり、クロがおじさんにそれを叩きつける。


「ダメだって!」


 おじさんを両手で横に押し、クロの攻撃を受ける。


「ワ…ワン!?」


 結界が衝撃で霧散し、私は少し吹っ飛んでしまった。


「っ、いたたた、クロ強…」


 さすが上級魔族。まだ本来の力じゃないだろうに、結界が一撃で霧散しちゃった。


 顔を庇ったので、両手の先から肘辺りに無数の切り傷ができた。幾つかポタリと血が垂れたのを、ハンカチで拭く。


「リリィちゃん!」

「二人ともストップ!」


 手を突き出して大きな声で言ったら、おじさんはビクッと驚いて止まった。クロは、服従の術が発動して確実に止まった。


「グ!?グル…」


「もうなんで戦うの?クロは別に何も悪いことしてないのに」


 固まってるクロの傍に行って、きゅっと頭を抱き寄せる。


「リリィちゃん、騙されてないか?俺には、そいつの下心丸わかりだぞ」

「下心?」

「だあっ、小さくても魔族でも男は男なんだよ。言われなかったか、男は狼になるって」

「うん?クロはイヌだよ」

「もう訳わからん」


 おじさんは頭を抱えて座り込んでしまった。


 よくわからないけど、取り敢えずおじさんは良い人みたいだ。


「おじさん、クロは良い子だよ」

「……そうか?」

「だって、こんなに目をキラキラさせてる」

「……嬢ちゃんの胸に埋もれてギラギラしてるな」

「こんなに愛くるしい顔してる」

「鼻の下伸びてんな」


 おじさんはゆっくりと立ち上がると、クロに近付いた。


「……おじさん」


 手にした剣が、ギラリと光るのを見つめながら、私はクロを覆い被さるように深く抱き込んだ。


「……嬢ちゃん、何にせよ、こいつは魔族だ。人間に仇なす生き物だ。情が深くなる前に始末した方がいい」

「だめ」


 おじさんの殺気に、唸りながら術に抵抗しようとするクロの背中を宥めるように擦る。


「魔族なんて関係ない。クロは私の大事な家族なの。家族を傷つけるなら誰だろうと許さないから!」

「……キュウン」

「リリィちゃん……あんた」


 真ん丸い目をして、私をじっと見上げるクロ。この子がいなかったら、私はもうとっくに心が折れていた。


 最初は自分の勝手でアテナリアから逃げたけれど、今は違う。


 私はクロを守りたくて逃げている。


「クロは……私に必要なの。人間だろうが魔族だろうが関係ない。クロはクロなの。お願い、おじさん…」


 クロの肩に額を押し付けると、小さな手がおずおずと私の髪に触れた。

 何も悪いことしていないのに、なぜ魔族だというだけで…


 そっと私の髪を撫でるクロ。術で手を動かすことも鉛のような重さを感じているはずなのに。


「この子が大好きなの。この子がいないとダメなの」


 森の木々が風でさわさわとそよいでいる。

 おじさんもクロも私も無言になってしまった。


 髪を撫で続けるクロの肩から離れて、その表情を窺う。


 クロは、視線に気付くとそっぽを向いた。

 でも赤い頬と緩んだ口元が見えた。

 尻尾が左右に揺れている。


 クロの気持ち、私にはよくわからないことが多いけど、今は嬉しいのかな。


「……分かったよ」


 難しい顔をして私達を見ていたおじさんが、ようやく剣を鞘に収めた。


 ホッとした私に、おじさんは呆れたように力を抜いた。


「見たところ、嬢ちゃんを本気で傷つける気はそいつには無さそうだし、取り敢えずは様子見だな」

「ありがとう、おじさん」

「デュークだ」


 私の帽子を拾うと、手渡しながらおじさんは名乗った。


「それで……訳有りらしいが、嬢ちゃんは何だってこんな森にいるんだ?この森の呼び名、知ってるよな?」


「うん、おじさんが宿で話してたよね。『大蛇の森』」


 術を解かれたクロは、わからないといったふうに首を傾げた。

 ずっと眠ってたからね。


「そうだ。魔物ハンターの俺がここにいるのは、この森にいるレアでスペシャルな中級魔族『ヨルムンガンド』を狩るためだ」


 聞いた途端、目を剥いたクロが私の手を掴んだ。


「ワ、ワウ!ワウウ!!」


 ぐいぐいと私を引っ張り、元来た道を戻ろうとする。


「どしたの?大丈夫だよ、ただの噂だし、見た人はいないらしいよ」

「まあ、見た奴は帰ってこなかったからな」


 デュークさんは、ははっと軽く笑った。




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