表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/127

君が必要3

 

 地図とにらめっこをしていた。皺のついたそれに、指を置いて考えている。


 ガタガタ


「わっ、と…」


 私の膝枕で眠っているクロが、荷馬車の振動で跳んでいくんじゃないかと思うぐらい揺れた。

 慌てて頭と背中を押さえたが、クロは目を閉じたままだ。


「気持ち良さそうに眠ってる」


 頭を撫でると、短い髪はすぐに指を通り抜ける。


 ここは、へパイストース国の南隣に位置するアフロディーチェ国。

 途中で、荷馬車を牽く親切なおじさんに会い、その荷台に乗せてもらっている。荷台には、こんもりと藁の山。ふかふかしていて気持ちがいい。


 これからどうしようかな……


 橙の話からして、私達の行動は把握されている。撒こうとして、遠回りしたのは無駄だった。

 それならば…


 真っ直ぐ行くっきゃないでしょ!


 取り敢えず、変装してみた。

 クロは、人間の子供のように人前では尻尾を隠して、瞳の色も変えている。

 それに何より、封印を解いた直後よりも成長している。

 いや、気のせいかと最初は思っていたけど、ここ二週間余りで2、3歳ぐらいの幼児が5、6歳に見た目なっていた。

 背も伸びて体重も増えて、抱っこも一気に辛くなった。


「この調子で成長すれば……一年でお爺ちゃんだね」


 ううん?魔族って不老長寿だったよね?

 よく分からないので、クロに聞いてみたところ……と言っても、ワンワン吠えたり頷くジェスチャーを解析してみただけ…だが、どうやらクロは封じられる前に、体の自由を奪われて魔力を弱体化させられた為に、見た目も弱体化していたらしい。


 ちなみに本来は何歳ぐらいの見た目なのか聞いてみたけど、「ワウン」って言っただけだった。


 ん?あれ?クロの精神年齢は、それじゃあ何歳なのかな?

 …………うん、よくわからないや。知らなくていっか。むしろ、知らない方が良い気がする。

 いや待てよ。あの神殿地下にずっといたなら……


 うん、まあいいや


 私は白のブラウスに紺色のスカートという、ごく普通の女子の格好をしている。髪は一つに三つ編みして帽子を深く被っている。


 目立つんだよなあ、この赤い髪。

 いっそ、切ろうかな。


 変装して逃げるには、目立たないに越したことないな。


 舗装されていない道路で、荷馬車が頻繁に揺れる。

 地図を畳んで、荷馬車から足だけ出してぶらぶらさせていた。

 今日も良い天気だ。まばらにあった家々は見えなくなり、辺りは平原と背の高い木々が目立ってきた。


 遠くに森が見えてきて、私はクロを起こして荷馬車から降りた。


「おじさん、ありがとう」


 手を振り、森から逸れて左に行く荷馬車を見送る。

 荷馬車がやがて見えなくなり、私は森の方へ目を向けた。


「クロ、大丈夫だからね」

「ワウ……」


 私の意図に気付いたのか、クロが眉根を寄せた。

 鞄から、用意したおんぶ紐を取りだし、嫌そうな顔をするクロの体に回して背負った。


「怖くないよ」


 おんぶしたら観念したのか、クロは渋々といった感じで私の首に緩く手を回した。

 ズシッとくる重みに、これは走れないなと歯を食い縛る。


 私は森に歩いて行った。ここを抜けた方が近道だし、転送魔法陣から離れている為に、運が良ければ追っ手を撹乱できるかもしれない。


 深い森は魔物の住処。奥へ行くほど危険が伴う。

 一般の人は、魔物ハンターでない限り避けて通る。


「怖くなんてないよお」


 そういえぱ魔物と対峙する時は、大体聖女候補の皆とだったなあ


 木々で先が見えない森の前で、私は緊張に体を強張らせた。

 自分とクロに結界を張っていると、首に回っていた小さな手が、私の頬を撫でた。勇気付けてくれてると感じて、その手に頬を擦り寄せた。


 うしっ、腐っても聖女候補だ。


「さっさと森を抜けて、早く宿で美味しいもの食べようね」

「ワン」

「で、ゆっくりまったり一緒にお風呂入って寝ようね!」

「ワン!ワンワンワンワンワンワン!」

「クロ、お風呂好きだもんね」


 クロのおかげで、良い感じに緊張がほどけて、私は森に一歩足を踏み入れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ