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君はペット4

 

「お待たせしました!オムレツ朝定食です!」


 宿泊客や近所の人が、朝御飯を食べに宿の食堂に次々やって来た。

 なかなか賑わってるね、このお宿!


 私は厨房から料理を受け取り、お客さんの元へ。


「おはよう、リリィちゃん!今日も頑張ってるね!」

「あ、おはよ、おじさん!また同じの?」

「おお、よろしく!」


 3日前から泊まっている、不精髭を生やしたおじさんは、魔物ハンターだ。

 人の入らない山や町外れの空き家なんかに住み着く下級魔族を狩り、その毛皮や牙や角なんかを売って生計を立ててる。


 厨房に行く途中で、食堂の隅にちらっと目を向ける。二人掛けのテーブルでクロは大人しく座っている。おじさんに、魔族だと気付かれないようにしなきゃ。


「リリィちゃん、休憩していいよ」

「ありがと、おばさん!」

「ほら、賄いだよ。それと」


 宿のおばさんが、私に封筒を渡した。


「今日ここを出発するんだろ?少ないが…」

「ありがとう、おばさん。でも宿代を」


 封筒には、お給料が入っていた。私、暇潰しに手伝ってたのに。今は、慣れてきて楽しくなって働いていただけ。

 だって、明け方に泊めてくれたんだよ。臭い生物も目を瞑ってくれたんだし、お礼がしたかっただけなのに。


「いいよ。あんたずっと手伝ってくれたろう?人が足りなくて困ってたんだよ」

「おばさん」


 私は封筒から一枚お札を出した。それでサクサクトースト朝定食とベーコンエッグ朝定食を注文した。きっと数百年ぶりの空腹を覚えているクロなら、食べてくれるだろう。

 おばさんは、苦笑しながらも黙って料理を出してくれた。


 私がクロの向かいに座ると、クロは既に二人前を食べていた。なぜかむすっとして、私を睨んでいる。


「クロ、まだお腹空いてるの?ほら、追加。たくさん食べて」

「ワ…ウ…ディ…」

「何?」


 私を指差し、何か言いたそうに口を動かす。


「ディ…リ、リイ?」

「ああ、偽名だよ。さすがに君を連れてるし、本名も聖女名も名乗れないもの」

「ワウ?!」


 そっか、クロは知らないんだ。


 ベーコンをクロの口に突っ込み、私は賄いの丸いパンをちぎって食べた。


「深紅は、聖女名だよ。選ばれて学校に入る時に、一人一人に白亜様が付けてくれるの」


 白亜様の名に、クロがピクリと反応した。私がクロを知らない時に、二人の間でどんなやりとりがなされていたのだろう。

 妬けちゃうな。


「私の本当の名前は……」


 クロが私を見ている。名前知りたいのかな?

 少しは興味持ってくれてるのかな?


「……また今度教えるね」


 眉をしかめたクロは、不機嫌そうに追加の定食を食べ始めた。


「ねえ、クロ」


 クロの口元の卵を指で取り、それをペロリと舐めた。


「ワウ?!」

「いつか私の名前教えたら、代わりにクロの本当の名前教えて、ね?」


 クロは魔族だ。ずっと飼うといったけど、いつかはクロのいた魔界に彼を帰さないといけないかもしれない。


 私だって、本当はそれが一番良いのはわかっている。

 寂しいな。


 赤い顔のクロの頭を撫でて、顎の下を擽ると彼は目を細めた。嫌がらないだけ、なついたと思っていいのかな?


「約束だよ」


 故郷に帰るまでは、一緒にいられたらいいな。

 クロは目を反らしながらも、小さく頷いてくれた。


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