君が見つけた真と希望6
空から13の光の筋が、雲を割って地上へと降り注いだ。
「………どうなってる?」
レイは、それを呆然として見守っていた。
初代魔王に伝言を託し、彼は再び力を使い魔法陣の中へと飛び込んだ。だが辿り着いた場所で見た光景は、今まさに異世界から13人の聖女が降り立つ瞬間だった。
しばらくそれを見ていたが、光が消えると我に帰り、彼は光が差していた辺りに行ってみることにした。
森の中へと足を踏み入れて、木々の間からそっと覗いてみれば、13人の少女達が目を覚まし起き上がるところだった。
皆、訳がわからずに不安そうな表情で辺りを見回している。
「ふわあ……あっれ?何でこんなとこで寝てんの私……あー、そっか昨日飲み過ぎたからなあ。酔っ払ってそのまんま寝たのか」
最後に目覚めた少女が、呑気そうに欠伸をしてから眠そうに目を擦っている。
「……母上か」
声を掛けたくなるのを我慢して、レイは物陰から彼女を少しばかり眺めて離れた。これから色々とあるだろうが、結果的に母は幸せだった。
だから、ここには用はない。
誰もいない所まで来ると、レイは持参した勇者の剣で再び手のひらに傷を作った。
「俺をレティの所へ帰せ!レティ、聖女深紅でもいい。レティレティ………深紅深紅……聖女聖女」
ぶつぶつと唱えていたら、次に彼が目にしたのは、聖女青の降り立つところだった。
「なぜだ!?」
そして次に見たのは、白亜と護の降り立つ光景。
「くそ、なんでだ!俺はレティのところへ帰りたいのに、よりにもよってこいつら……」
おかしい。なぜ聖女達のやって来る光景に三度も出くわすのか。
「俺はただ、レティの元へと……」
力を使う時に何かしたかと、レイは考えた。
「レティのところへと帰る」だけでは心許なくて、「聖女深紅のところへ」と思いを込めたが、それが「聖女」というフレーズにだけ魔法陣が反応したとするなら………
「は、まさか、な」
呟いてみたが、三度も聖女の降り立つ光景を見たレイは、自分の推測に額を押さえた。
「……まさか俺が間違えて聖女を呼んでいたのか?」
時折、異世界から聖女がやって来るのは自然現象だと思っていたが、どうも自分の力の影響だったようだ。
「ここは?」
倒れていた白亜が目覚めて、護に問う。見たくもない相手を再び目に映し、レイは手に持つ剣を握り締めた。
あの二人を今殺せば、自分はあれほど苦しむことはないはずだ。まして、イチカの人生はあんなところで……
これが自分のせいだったなら、俺がここで二人を殺しても咎める者はいないだろう。
護の背中を狙って、木々の間から今にも飛び掛かろうとしたレイだったが、迷った挙げ句、振りかざした剣をゆっくりと下ろした。
「っ、くそ」
木に背中を預け、剣を苛立ちのまま地面に突き立てた。
できない。
歴史が変わるのを危惧するというよりは、レティシアと自分が会えなくなるのが嫌だからだ。
良くも悪くも護がいたからこそ、真白は聖女白亜として聖女候補達を育て上げた。
だから、ここで二人を殺せば聖女深紅にクロが会うことがなくなるかもしれない。
「イチカ、すまない」
妹とレティシアを天秤にかける気はない。だが……
「俺は、あのレティに会いたい。クロを飼って愛してくれた、俺の愛した深紅に会いたい」
身勝手さを自覚して唇を噛み締めていたら、降臨した聖女を捜しに来たエドウィンが、レイの近くを気付かずに通り過ぎた。
それを横目で見やり、再び魔法陣を描く。
何度も傷付けた手のひらは、治りきらない傷に新しい傷を重ねた。
「俺はレティシアに会いたい」
*************
「どうした、青?」
旅の途中の道端。
聖女青は、道から少し外れた草むらを身を屈めて覗き込んでいた。
「えっとですね、人……が倒れているんです」
ずれた眼鏡を指で上げて、青は彼を見たまま、王子に報告した。
「…………この男」
「むむ、何か知ってます?」
俯せに倒れていた男に、耳がなく尻尾だけがあるのを見て、王子は黙りこむ。
青は、そんな彼を怪しんだが、男の手から流れる血を止めようと治癒の術を施した。
そうしていたら、ふいに目を開けた男が、青と王子の姿に跳ね起きた。
「……な……」
「大丈夫?君は誰?」
目を見開き固まっていた男は、なぜか残念そうに聞いてきた。
「もしかすると、聖女青のパーティーか?」
「よく知ってるね、君は一体」
「ああ!なぜだ!」
頭を抱えて、こちらに背中を向けた男は、「帰りたいぃ」と泣きそうに呟いている。
「ちょっと、君……」
青が声を掛けて近付こうとするのを無視して、彼は剣で、また手のひらに傷をざっくり付けて魔法陣を描き出した。
「頼む!俺を元の所へ戻せ……」
懇願するように言って、魔法陣に飛び込んだ男は、それっきり消えてしまった。
「な、何だったのでしょう」
驚いている青の目に、男のいた場所に淋しく落ちている勇者の剣が映った。
旅の終わりの魔王の城。
聖女青は、その男を見つけ、彼の力に期待し、その容姿に萌えた。