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君が見つけた真と希望4

 

 今回の議題は………


 先の護によって起こされた混乱によって被害を被った人々への長期的補償。


 そして、聖女や神官の養成の廃止と学校の解体。


 転送魔法陣の見直しと鳥形魔族や足の速い魔族による交通手段の拡充。


 加えて、魔界側からの提案による『魔界という認識の修正』だ。


「つまり魔界という呼び名を廃止するということですか?」


 最後の議題について質問がとぶ。


「呼び方を変えるだけではありません。魔族の住む土地は、そもそも貴殿方人間達の住む世界と同じなのですから、違う世界のように人間界魔界と隔てるような呼び名を辞めるということです」


 ギル兄が説明してくれる。人とのハーフである彼なら説得力があるはずだ。それに人間である私も。


「魔界を一つの国として認めて下さい。確かに見た目や身体的な能力や寿命で魔族は人間とは違います。ですが、異なる民族の違いなどで別の世界の者のように見られるのは間違いです」


 私が言うと、皆静かになって考えているようだ。アテナリアが秘密にしていたことは、もう世界中の皆が周知している。

 魔族と人とのハーフが増えていること。神官や聖女の目的。魔界のイメージの誤り。


 私が魔王として一回目の会談に現れた時、皆驚いていたものだ。

 魔力が無く、魔族でもない元聖女。魔王であったネーデルファウストの妃で子どもがいないという理由だけで、魔王を名乗ったのだから。


 でも、人間の魔王だからできることもあるんじゃないかな。


 私は既に、人間を排除する目的で流していた魔力の結界をギルさんと共に消している。

 人間界と魔界を隔てていた大河にディメテル国と合同で橋を造る計画も挙がっていて、他国との流通などの行き来も近々開始する予定だ。


「では、お聞きします。国として成立した暁には、レティシア様の国の新しい名は何でしょうか?」


 タリア様が面白そうに問う。


 色々考えたけれど、なかなか良い国名が浮かばなかった。

 ギル兄に候補をお願いしたら、『地の最果ての国』『天と地の狭間の国』『闇を統べし古き国』とよく分からん厨二病な候補を挙げてきたんだよね。

 だからやっぱり私が考えたんだけど………


 私は一拍置いて答えた。


「レイ・レティシア国です!」

「………そのままですわね」


 **************


 会談が終わり、直ぐに帰る人達を見送り、ブラウスとスカートの簡素な服に着替えたら、あっという間に夕食だった。

 難しいことを考えたら疲れる。聖女候補時代の私が見たら、こんなに頭使っている私に青ざめることだろう。それこそ逃げ出すぐらいに。


 今日の夕食は、泊まる予定のタリア様とユリウス様と食べることになっていた。


 皆の前では、なかなかプライベートなことは聞けないので引き留めたら快諾してくれて嬉しい。


「私もあなたと話がしたかったから良かったわ」


 サラダを口に運び、タリア様は満足そうに微笑む。


「頑張ってるわね、深紅……ああ、もう聖女名は使わないんだったわ」

「レティって呼んで下さい。タリア様」


 会談とは違い、親しく呼び掛けられて安心した。


「ではレティ。無理はしないで、何かあったら相談に乗るわ。私は……あなたのお友達になりたいから」

「私は、タリア様のことお姉さんだと思っていますよ」


 そう言うと、彼女は嬉しそうに頬を赤らめた。


「あらあ、こんな年上だけれど姉で良かったかしら?ふふ、嬉しいわ」


 うん、タリア様、私の目指す年の重ね方をしていらっしゃる。この年齢を越えた美貌、そして色気。

 いつか私がタリア様ぐらいの歳になった時、彼女のような大人の魅力で、レイをメロメロにしてみたい。


「ネーデルファウストは、まだ戻らないんですか?」


 気になったのだろう、ユリウス様に唐突に聞かれて私は一瞬黙った。


「ユリウス」


 叔母であるタリア様が彼を咎めるのを、「いいんです」と止める。


「まだ戻りません」


 あまりこの話をすると、すぐに私は泣くので簡潔に告げる。


「そう、ですか。ごめんなさい、配慮にかけて」


 しゅんとなるユリウス様に、緩く首を振って代わりに聞いてみる。


「エドウィン様は……まだ?」

「ええ、まだ目を覚ましません」


 顔を曇らせたユリウス様だが、こちらを見る彼に焦りや絶望はない。


「でも、いつかは目覚めるはずです。それに、傍にずっと白亜……真白が付いています」

「そっか……それなら良かった」


 あの時、エドウィン様は瀕死だった。真白様の治癒で一命は取り留めたけれど、ずっと眠っている。

 アテナリア王宮の庭の一隅に、元は物置小屋だったのを改装してエドウィン様と真白様は住んでいるそうだ。


 アテナリアは、弱小国に転落した。

 凶悪な勇者を呼び寄せ、他国へ災いをもたらした責任を取り、莫大な補償金を支払うことなった。

 また、神官や聖女の個人的な使用が明るみになり、その上、魔王封印が不要になり、魔界のイメージの改竄にも関わったことから信用も失墜してしまった。


 エドウィン様は王位を降ろされ、真白様は聖女名と功績を剥奪された。


 そして王宮を追放という形ではあるけれど、ユリウス様の温情として、庭の片隅で二人で質素な暮らしをしている。

 真白様は死も覚悟していたようだが、ユリウス様がそれを許すわけがなく、今は眠り続けるエドウィン様の世話を全て一人でしている。

 罪を償うように、ひたすら。


 真白様にしてみたら償いどころか、どんな幸せかと思うけど。きっと彼女は、今までで一番平穏な時を過ごしている。



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