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君が見つけた真と希望3

 

 ああ、朝……


 寝てないんだか寝たのか、よくわからない浅い眠りを繰り返し、鳥型の魔族が高く鳴くのを聴いて目を開ける。


 無意識にシーツに手を滑らせ、いないはずの彼の体を探してしまう。

 広いベッドは一人では落ち着かなくて、彼と離れてしまった直後は、スリィちゃんに一緒に眠ってもらったものだ。

 あれから半年経ち、最近になって一人なのに馴れてきた。


「レティシア様、起きていますか?」


 扉の向こうからスリィちゃんの声がして、返事をすると遠慮がちに開けて入って来た。そして、私に丁寧に挨拶をする。


「おはようございます、陛下。今日は予定通り、各国の皆様と共に昼食を召し上がりながらの会談ということで変更はありません」

「おはようスリィちゃん。昨日夜にギルさんに手配してもらった皆の迎えは大丈夫かな?」

「はい、転送魔法陣と鳥型魔族での移動で、皆様こちらへいらしている途中だそうです」

「そっか、良かった」


 会談の事を考えると緊張が走るが、これも3回目なので最初よりはリラックスして臨めるはずだ。


 食堂でスリィちゃんと一緒に朝食を食べてから、部屋で身支度を整えるのを手伝ってもらう。


 今日は濃い青のドレスを身に付ける。化粧をして髪を編んでもらう。鏡に映る自分が、自分じゃない気持ちで見つめる。

 聖女候補だった時や彼がいた時は、こんなに着飾ることもなかった。


「とてもお綺麗ですわ」

「そ、そう」


 本当に見てもらいたい人は、いないんだけどね。そう思ったらやっぱり悲しい。

 スリィちゃんは、そんな私の気持ちを察して、なるべく一緒にいてくれる優しいヒトだ。眠る前は、ホットミルク片手にカードゲームをする友達かな。


「チャージアンドドロー!」

「ぐわああ」


 って。


「お時間です」


 支度をして、会談内容をチェックしていたらギルさんに呼ばれ、私は広い城内をギルさんを後ろに従えて歩いた。


「サポートはしますし、答えに詰まった時は後ろに控えて助言しますから安心して下さい」

「うん、ありがと、ギルさん」

「さんは、いりませんから」

「そうだった。ギル……兄」


 言ってから、私は足を止めた。


「……兄?」


 ギルさんが、こちらを静かに見ている。

 長い渡り廊下の窓から、春らしい柔らかな日射しが注ぐ。


「私なんかの我が儘を聞いてくれて、ありがと」

「何言ってるんです」


 冷たそうな表情のギル兄。でもわかっている。彼は心配性で真面目で世話好きなお兄さんなのだ。


 レイがいなくなり、ワアワア泣きっぱなしの私を叱咤激励したのは彼だし、人の命は短いから人間界で暮らして幸せを探していいと、私を自由にさせようとしたのも彼。

 反発して、絶対にレイを待つと言い張る私に、ならばやって見せなさいと、役目を与えてくれたのも彼だ。


「私、皆がいなかったら、やってこれなかったよ」

「見ていて今一つ頼りないですからね」

「う、ギルさん………お兄ちゃん、ありがとう」

「……何ですか、このエピローグに近付く流れは、ああ、泣いてはメイクが崩れて、直ぐに怪物になります」


 淡々とツッコミながらも、泣きそうになる私の目元を、胸ポケットから出したハンカチで押さえてくれる。


「……お兄ちゃんですか、悪くはないです」

「お、おにいちゅあん」

「気持ち悪い。でもまあ……」


 髪を乱さないように、私の頭にポンッと軽く触れ、ギル兄ちゃんは微かに照れて告げた。


「あなたのこと、ちょっとは妹のようだと思っていますよ」


 そうして目的の部屋の扉を仰々しく開けてくれる。

 中にいた人々が一斉にこちらを向いて立ち上がる。


 そこにはディメテル国のタリア様と国王、アテナリアの新国王ユリウス様と補佐官のネーヴェ様達。そして各国の王族や有力者の姿があった。


 私が一礼してテーブルに着くと、ギル兄ちゃんは私の後ろに控えて頭を垂れた。


「我らが魔王……レティシア陛下の御到着で御座います」


 少々震える両手を、膝に置いてぎゅっと握る。微笑みを意識して私は宣言した。


「これより第三回首脳会談を始めます」




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