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君が見つけた真と希望2

 

「確かに似ていると思いまして、ルイス様の遠い血縁の方かと思って連れて参りました」


「あまりに堂々と城に入ろうとしてましたしね」と、部下のヤギ……クリスシャトレーゼはレイを好奇心と共に見つめる。


「さっき頭下げろって偉そうに言ったくせに」


 クリスを睨むレイを魔王は観察するかのようにじっと見ていた。


 魔王はレイよりも年上に見えるが、目鼻立ちはよく似ている。違うと言えば、レイよりも唇が厚めで眉も少し太く体つきもがっしりしているところか。あと狼のような銀色の耳と尻尾付きだ。


「………その話を儂に信じろとな?」

「別に信じなくていい。ただ少し助けが欲しいだけだ」


 今までのことを話し、立ったまま腕を組んで頼み事をする曾孫。


「ふむ、助けとな?」

「俺は元の時代に帰りたい。ここから四千年ほども先の未来だ。場所の移動はできるが、俺は時を移動したのはこれが初めてだ。だから上手く帰れるか自信がない。魔界を創ったと言われるあんたなら、帰り方のヒントぐらいもらえるかと思うのだが」


 思案げに顎に手を置いていた魔王だが、徐々にその顔に笑みを浮かべていった。


「ふん、信じてもらう前提の頼み事だのう。だが、儂は信じるぞ」


 おもむろに立ち上がり、レイに歩み寄った魔王は、愉快そうな表情で目をキラキラさせた。


「ファンタジーじゃのう!こういうのワクワクするんじゃ!そうかそうか、儂の曾孫か!なかなか可愛いじゃないか」

「近い近い」


 ぐいぐい寄ってくる魔王から顔を背けて、安心と呆れに溜め息をつく。


 なんて単純な、ひいじじいだ。こんなんだからオレオレ詐欺に合うんだ。


『歴代魔王日誌』に載っていた、手紙で息子と名乗る人物からの金くれを真に受けて大金を送って、魔界を財政赤字で潰しかけた逸話を思い出し、レイは納得した。


「………魔王日誌」

「よく来たのう!そうか、母が人間とな。世の中変わるもんじゃのう」


 ふと思い付いたことがあり考えをまとめようとしたが、魔王が肩を揺すって、嬉しそうに話しかけまくるので、疲れた体に響く。


「ひいじい様、取り敢えず風呂と着替えと、あと何か食べさせてくれ、あと寝る」


 気が抜けて、レイはお腹を鳴らして訴えた。


 *****************


 魔界は、初代魔王が統治するまでは存在しなかった。

 あくまで人間側からの見方によるが、魔族達の住むそこが未開の土地だったからだ。

 古くから魔族は、大河を隔てた将来魔界と言われるその地で慎ましく生活していた。

 国としてではなく、小さな村が幾つも点在し、人間と関わらずに独自の生活を貫いていた。


 だが文明の発展に伴い、人間達が大河を渡り、遂に魔族達(原住民)を知ってしまった。

 弱い彼等は臆病で、見た目から魔族を恐ろしいものだと認識し、差別し、或いは攻撃するようになってきた。


 友好関係を築く努力は、魔族の人間への無関心と人間の魔族への先入観と恐れによって失敗に終わった。


 村の村長をしていたルイスモンテールは、魔力の流れを調整して侵入できないようにして魔族の地を守った。


 そして人間の文明を見倣い、魔界という国を立ち上げた。国としてあるなら、人間もこの地を容易に手出しはできないと考えたからだ。


 簡単には入り込めない未知の魔界。

 人間にとって魔界は国と言うよりも別の世界のように見られるようになった。


 そして、魔界の王として、ルイスが初代魔王を名乗るようになった。その後、人間にオレオレ詐欺をされてしまったが。


「……ただの人の良いじい様だな」

「ほうら坊、おやつをやろう」

「そんな歳じゃねえ」


 ニコニコして、両手一杯のお菓子を抱えている魔王は、レイを曾孫だと信じきっている。


 単純なじじいだ。そういえば親父も、戦った敵である聖女の母にすぐにほだされて結婚したし、単純さは遺伝なんだろうか………


「俺は違う!」

「どうしたかの?ほら、つまみのイカ足」

「くっ、もぐもぐ、酒もくれ……じゃない!」


 危うくペースに乗せられるところだった。


 食べて寝て魔力と体力の回復を図ったレイは、翌日魔王の助言を求めていたのだ。決してひいじい様に餌付けされてるわけではない。


「ふむ、正確に帰るにはどうしたらいいかとな……ううむ」


 湯呑みで茶を啜りながら、ルイスは答えた。


「そうさな、目印はないかの?」

「目印?」

「その時代の目印というか、力を導く道しるべのような物」

「そんな都合よくあるわけない」


 こんな状況になることを前提に準備したわけではない。


「…まあいい……明日にでも、試してみる」

「そうか。気を付けてな」


 あからさまに淋しそうに、耳と尻尾と首が項垂れる初代魔王。


「ところで、ひいじい様は日誌は付けてるか?」

「おお、魔王になってからは色々書いているぞ。日誌というか随筆に近いかのう。徒然なるままに、そこはかとなく植えた野菜の種類から、お気に入りのつまみや酒の種類に今日の格言まで」


「日誌ということにしていい」


 レイは失った左手の人差し指と中指の包帯を巻いた切断面を右手でそっと覆った。


「そこに、俺のこれから言う事も書いてくれないか?」




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