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君の隣で見る景色2

 

「鬱陶しいおっさんだね!」


 斬りかかるデュークさんに、苛立った護が空振った彼の腕をかわしざまに斬りつけてから、襟首を掴むと高く放り投げた。


「うわっ」

「デュークさん!」


 遠くの木の幹にぶつかり、デュークさんは倒れて気を失ったみたいだ。

 自分の足を見下ろし、護が舌打ちをした。デュークさんの剣が深々と太ももに突き立てられている。

 そこに間髪入れず、ぐるりと首に魔力が絡まり絞め付ける。

 ぐいっと引っ張られた護が後ろから倒れる。


 その体を足で踏みつけ固定したレイが、護の胸に剣を突き刺す。

 ズズッと食い込んだ剣を見ながら、護が「いったいなあ」と呟く。

 血は出るのに、傷つけられたそばから回復しているらしい。


「ばぁか、死なないっつてんの!」


 レイの足首を掴んだ護が、片手で彼を地面に打ち付ける。デュークさんの剣を引き抜き、それをレイの腹に突き刺す。


「ぐあっ」

「ふうん、やはり死なないかな」


 ぐりぐりと剣を捩じ込み、護は彼の苦しむ表情を窺う。

 レイの手が腹から流れた血に触れる。


「ね、首はねたらどうなるの?」

「……貴様は…どう、だ?」


 ニヤリと唇を上げたレイの手が、いきなり護の顔を覆う。


「な、なに?」

「魔王を嘗めるな」


 ジュワッと嫌な音がして、慌てて離れた護の顔は黒ずんで肌は干からびて、皺だらけになっていた。

 これは以前、ヨルさんと戦った時に蔦を枯らしたのと同じ枯らす力だろう。


「うわああ!」


 顔に触れた護が驚いて叫ぶ。


 レイは、それを見ながら体を起こし、血まみれの手を地面に強く押し付けた。


「我が血をもって、扉を開かん!」


 前回見たのとは違う赤黒い光が、レイを中心に湧いた。

 それは巨大な魔法陣だった。

 護に傷付けられる度に、血で少しずつ描いた魔法陣は広くて彼が気付かないほど。


「あああああ、僕の顔がっ」


 顔を覆いながら悶え、ふらふらとする護からレイが距離を取る。

 腹の傷を押さえながら私を見て頷くのを合図に、詠唱を唱える。


「その身を射よ!」


 即席で教えてもらった光の矢が護の足を何ヵ所も射抜く。


 ………おかしい。私学校にいた時にはこの術苦手だったのに、ちょっと集中したらできた。いかに覚えようとする意志が大事か今わかったよ。


 続けて白亜様が重ねて矢を放ち、耐えられずに彼が倒れる。


「これは……」


 私達の後ろから、ネーヴェ様がやって来て驚いて見ていたが、状況を直ぐに理解したようだ。

 詠唱を唱えると、体力減退の術を彼に掛ける。


「く、ふざけ…」


 顔が半分元に戻った彼が、手をバネにして立ち上がる。

 その足を魔力がぐるぐると巻き付く。


「これ…僕の元の世界に繋がっているんじゃないんだろ?」


 ギロッと干からびた目が、息を切らすレイを見る。



「……永遠にさ迷っているのが、貴様にはお似合いだ」


 憎しみを込めて言い放つと、レイは護に背を向けた。


「待て!」


 焦った護が足の魔力を剣で断ち切ろうとする前に、私と白亜様とネーヴェ様により拘束の術で彼を動けないようにする。


「真白、僕を助けろ!」

「……………………………」


 白亜様が、護に名を呼ばれて肩を揺らす。それから辛そうに彼を見つめた。


「真白!」

「……謝りはしない」


 自分に言い聞かすように呟き、彼女は悲しげに……微笑んだ。


「護、さよなら」


 静かに告げて、もう一度彼に矢を放つ。額や首、胸や腹に矢が刺さるのを見届けた白亜様が嗚咽を漏らした。


「レイ!」


 足を引き摺るようにして魔法陣から出ようとする傷だらけのレイに走り寄る。


「ば、か、来るな」

「早く」


 肩を貸して、レイを支えながら歩き、なんとか発動する前に魔法陣の外に出た。


 赤黒い光が上部に立ち昇り、それに包まれた護の姿は見えなくなった。


「護は、どこへ行くの?」


 魔法陣の光に目を細める白亜様が小さく問う。レイは、彼女を横目に答えた。


「……どこでもない所。死ぬまでずっと次元の狭間をさ迷うだろう」

「……そう」


 力尽きたように、白亜様は草むらに座り込んだ。


 私は支えるレイと共にふらつきながら、治癒を施そうと彼の腹に手を翳そうとした。


 そこから、よく覚えていない。


 気が付くと、地面に体を転がした状態で次元の狭間に吸い込まれるレイの手を引っ張ろうとしていた。


「レイ!レイ!」

「く、そっ、しぶとい奴め!」


 レイは自分の足にしがみつく護を見下ろしている。

 ぽっかりと穴が開いたようになっている魔法陣の端から、吊り下げられたように二人連なっている。

 レイの腕を引っ張ろうとするが、重くて動かない。


 それどころかズルズルと私まで引き摺られて穴に落ちるかもしれない。


「道連れにしてやる!」


 護の笑い声が、奇妙に響いた。


 私の隣から、ネーヴェ様と白亜様が手を伸ばす。だが魔法陣自体の穴から発する吸引力と二人分の体重に、私共々引き摺られる。


「早く離せ!レティまで墜ちるぞ!」

「やだ」


 本では、こんな時どうしたっけ?無事助かったんだっけ?それとも……


「レティ、聞け!俺はこの力で戻ってこれる。だが、この世界の者が狭間に墜ちたらどこにも辿り着けない!」

「それでも!」


 腕が千切れそうに痛む。血で滑るレイの手に、ネーヴェ様と白亜様の手が離れる。


 上半身半分穴に入った状態で、歯を食い縛る。後ろから白亜様が私のお腹に手を回して落ちないように引っ張ってくれる。


「う、うう、それでも…」

「レティ、手を……」


 ほどこうと、レイが握っていた指を広げて弛める。それでも私が掴んで離さないのを見て、困ったような嬉しいような顔をする。


「レティシア」

「いや、いや……離れたくないよぉ」

「俺も」


 子どものように言う私に、苦笑したレイが空いている方の手で再び魔力の剣を出現させる。


 私はそれを見て、彼が護を剣で振り落とすのかと思ったけれど違った。


「すぐ帰るから……待ってて欲しい」


 そう言うと、私が掴んでいた自分の指に剣を宛がい……一気にぐっと横に切り落とした。


「いやあ!レイ、レイ!!」


 切り落とされた二本の彼の指を掴んだまま、私は狭間に吸い込まれるレイを見ていた。

 追いかけようとするのを、白亜様達が私を捕まえて魔法陣から引っ張り出した。


「いやだあっ」


 魔法陣と光の消えたそこには、風にそよぐ草原があるだけで、ゆっくりと朝日が白く射し込んでいた。





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