表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/127

君の隣で見る景色

 

「……痛いじゃないか」


 俯せに倒れていた護が、ムクリと起き上がる。

 やっぱり死なないのかもしれない。

 致命傷を与えたと思っていたデュークさんが、まさかと驚いている。


 それを見るや、レイが私を懐に抱き寄せて魔力を天井に勢いよくぶつけた。

 彼の魔力は霧状だったり紐のようだったり、かと思えば鋭く剣のように実体化したりするが、今回は物質を破壊することを目的にしていた。


 轟音と共に天井に穴が開き、月光が注ぐ。

 しゅるり、と護の体を魔力で縛ると、レイの足元も魔力で浮く。


 私を抱いたまま、穴から地上へと飛び出したレイは、魔力で引っ張り出した護を地面に叩きつけた。


 神殿の近くの草むらに出た私の耳に、歓声が聴こえた。

 小高い丘に位置する神殿の麓、アテナリアの王宮と周辺から人々の喜びに沸く声がした。


「どうやら人質が解放されて、王宮の制圧も完了したみたいだな」


 レイが耳を澄まして、地面に手を付く護を見下ろす。


「観念して死ぬか?」


 剣を突きつけて冷ややかに問うレイに、護が急に笑い出す。


「はは、だから何だってんの?別にどうなっても興味が無いよ。それに」


 勇者の剣を持ち替えて、護がレイめがけて剣を放った。

 難なく避けたら、護が呼んだ。


「剣よ!」


 くるりと弧を描き、声に反応した剣が彼の方へと戻ろうとする。

 そして、レイの背中に突き刺さった。


「ぐっ!」

「きゃあ!」


 膝を付いたレイの背に治癒を掛けようとしたら、手に剣を掴んだ護が素早く振りかぶる。


「縛れ!」


 拘束の術を掛けたら、レイが護の足を更に魔力で縛り上げた。


 護がそれを外している間に、私は自分とレイに結界の詠唱を唱えた。


「僕はね、この世界がどうなろうが興味ない。興味があるのは君達にかな」


 レイの背中の傷を治癒していたら、彼が息を切らしていることに気付いた。


「息上がってるね、神殿の地下で無理して魔力を大量に使ったから疲れたんでしょ?それじゃあ、そろそろいいかな?」

「な、に?」


 トントンと軽く刀身の平たい部分で肩を叩いて、護がこともなげに言った。


「君はどこまで切り刻んだら死ぬの?実験したいな」


 ぎりっと歯を噛み締めて睨み付けるレイを、護は挑発して面白がる。


「ネーヴェに頼んで君を呼び寄せたのは、元の世界に帰る為だけど、単純に興味があったからだよ。魔王は寿命以外では、なかなか死ねないんだってね?僕よりもしぶといか気になってさ」


 気味の悪い笑みを浮かべるのに嫌悪感が募る。どうして彼が勇者の力を持っているのか不思議だ。


「君の妹も父親も呆気無くてつまらなかったからね。だから君が肉塊になっても生きてるか知りたいし、そうなった時の深紅ちゃんにも興味があるな。昔妹を目の前で殺されたネーデルファウストのように、うちひしがれた顔を」

「黙れ!!」


 カッとなったレイが、護に高速で魔力を撃ち込む。


「メーベルはギルと婚約していた!これからだったのに!それなのに!」

「はは、知らないよ。まだこんな力あるんだ」


 レイの攻撃を剣で弾きながら、護は感心したように言う。


「レイ!」


 冷静さを欠いているのが心配で、結界の術を彼に施す。


「レティ、本当は俺はこいつをもう一度呼び寄せたかったのかもしれない。いくら白亜の術で強制されたからといって、望んでいなければ抵抗できたはずだ」


 苦くレイが言葉を吐いた。


「復讐したいと、ずっと願っていた」


 護に冷たい視線を向けたままのレイの表情に、様々な感情がひしめいている。怒り憎しみ殺意、悲しみと復讐を果たせる喜び。


「………レイ」


 彼の心の奥底を垣間見て、言葉を失う。


 護の一撃で、結界が霧散する。続いて繰り出された剣をレイの剣が受け止める。鍔迫り合いになったところに、鋭い刀となった魔力が背後から護に襲いかかる。


 肩を抉られた護が、お返しとばかりにレイの肩を抉る。


「縛れ!」


 肩を押さえた護に拘束の術を掛けて、レイに治癒と魔力増強を施す。無理やりの増強は体に負担を掛けるが、切り刻まれるよりはマシなはずだ。


「あ……」


 目眩がして、ふらつくのを耐える。私の方が消耗していたらしい。


「レティ!」

「………大丈夫」


 なんとか足を踏ん張ったら、後ろから肩を支えられた。


「あ、デュークさん」

「嬢ちゃん、休んでな」


 そう言うと、レイに助太刀しに行くデュークさん。


 朗々と長い詠唱を唱える声に振り向けば、白亜様が立っていた。その旋律に動揺する。弱った彼女には強すぎる術だ。


「いけない!」


 私が止めに入る間もなく、護を見据えた白亜様が唱え終わる。


「その身の時を止めよ!封印!」

「ムダだね!」


 強力な封印術を、勇者の剣が阻む。空気が振動し風圧で護の周りにいた者が吹き飛ばされる。


 倒れる白亜様を支えようとして、共に草原に膝を付く。


「それは魔族にしか効かないんじゃなかった?チートな勇者に効くわけないだろ」

「く……」


 唇を噛み締める彼女に余力があるのを見ると、結界術の失敗は生命力を削らずに、結果的に彼女を救ったのを感じて安心する。


「護は、私が呼んだの。だから私が止めないと」


 悔しげに白亜様が呻く。斬り結ぶレイに、また傷が増えて血が流れた。


 その姿を見つめ、白亜様に声を掛ける。


「白亜様、私に攻撃術を教えて下さい。私苦手で」


 いきなりの言葉に驚く彼女の手をそっと握る。


「大丈夫です。白亜様ならきっともう…」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ