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君死に給うことなかれ3

 

「青、どうして兄妹二人もアテナリアに連れて来たんだい?」

「ぐへへ、素敵」

「青……」


 ヨダレを拭きながら魔王の子供達を見つめる聖女に、引き気味に問う300年前のアテナリア王。


「は、そうですね、私としては元の世界に戻れる確率は一人より二人いた方が上がるかな、と。結界の強度もわからないから、これから研究をして結界を解く方法を見つけて、早く二人のどちらかに元の世界に返してもらいます。それに、ネーデル様………素敵……メーベル様も……お美しい…」

「青!」

「ひゃい?」


 ストレートな黒髪をさらりと揺らし、青は肩をビクッと動かした。

 眼鏡の下の大きな瞳が忙しなく瞬きしている。


「彼等は魔族だ」

「だからこその萌えです」

「……あなたは惚れやすいな」

「いえ、萌えで」


 結界の中で、二人は眠っている。人が来るのに慣れてしまったのと、結界を破る者はいないだろうという自信からだ。

 まだ青年の姿のネーデルファウストは、青の得意な拘束術で両手足を鎖に繋がれている。

 メーベルは、両手を前に纏めて縛られ座っている状態だ。

 その差は、メーベルが女性であることと彼女の方が人間に近い為、魔族としての力が弱いのを踏まえての配慮だ。これが配慮と言えればだが。


「だが本当に確かなんだろうか?」


 勇者として青と、魔王の封印の旅をしたアテナリア王は半信半疑だ。


「この魔王の子供達に、あなたを元の世界に返すような力が真実あるのだろうか?」

「またですか?もう!一緒に見たじゃないですか。旅の途中に」

「あの男の力は確かに見たが……他人の空似だ。同一人物が同じ時に存在するなんて不思議なことあるわけ無い」


 ぷうっと頬を膨らませて拗ねる青を、アテナリア王はちらりと見て楽しんでいる。


「……私は信じています。彼が私を返す方法を知っていると…ん?何ですか?」


 自分を見つめる王を、背の低い青はぐいっと顔を上げて見返す。


「……いや、帰らなくてもいいのになあ……なんてな」


 王は、頬を掻いて呟いた。



 *************


「それじゃあ聖女青様は、結局元の世界に帰ることができずに王様と結婚したんだね」

「まあそういうことです」


 そのまま人質としてアテナリアに囚われていたレイ達を思うと、何とも言えない。


「でも青様は、旅の途中に何を見てレイ達の力を知ったのだろうね」

「それ以上のことは記録に無くて……」


 ユリウス様が言葉を途切らせて目を見開いた。


「……これは」


 階段に血糊を見つけて、デュークさんが唸った。


「父上、白亜……」

「ユリウス様」


 泣きそうになるユリウス様の腕を支えて、私は結界の術を唱えながら先に進んだ。

 デュークさんも、前を見据えて剣を構えながら慎重に進む。

 デュークさんの剣は、魔力を斬るように力を込めた魔道具の一つだろう。

 勇者の剣は、エドウィン様が持つ剣が唯一そう呼ばれている。


 私達は、側の王宮に続く隠し通路の扉を見ただけで、地下へと階段をそのまま下りた。引き摺ったような血の跡が地下へと続いていたからだ。


 すると、誰かが押し殺すように泣く声が響いてきた。


「ネーヴェ様?」


 重苦しい空気に息を詰まらせ階段を下りきった。

 そこには、座り込み顔を俯かすネーヴェ様の姿。


 その向こうで、護とレイが剣を手に斬り結んでいる光景。


「レイ!」


 護は足首の辺りから出血し、レイは左腕から血を散らせていて、互いに傷を負っていた。だが息を乱しているのは、レイの方が激しい。護の勇者としての力が身体と体力を大幅に強化しているらしい。


 それに確か、神殿自体が聖域として特殊な自然の結界があって、魔族の力を弱めるって聞いた気がする。


 つまりレイは、とても不利だよ!


 焦って駆け寄ろうとしたら、私に気付いたレイがもっと焦った表情をした。


「う、レティ!ごめん!一緒にいるって約束、わざと破ったわけじゃないから!」

「へ?」


 護の剣を受け止めながら私に顔だけ向けて、レイは不安げに言った。


「だから怒らないでくれ。こ、これからも俺はずっとレティと同じベッドで寝たい!ナメナメしたい!子ども作りたい!」

「んな?!」

「頼む!モフッていいから!」

「わ、わかったから、ちょい口閉じて!」


 なぜなのかな?好きとか私に告るのは恥ずかしい癖に、エロいことは平気で言っちゃうのは。

 でも、そんなこと気にしてたんだ、この可愛いワンコめ。


「あいつ、何を言ってんだ?」


 常識人のデュークさんは、呆れを通り越して訳が分からないみたい。


「ふうん、君が魔王の嫁の深紅ちゃんか。なかなか可愛いね」


 護が私を見て、嫌な笑みを浮かべた。ゾクリと背に冷たいものを感じて足を止める。


「ダメ絶対ダメ絶対ダメ絶対!!」


 それを見たレイの剣がスピードアップし、その背後から魔力が幾筋も伸びて、護を刺し貫こうと飛び掛かる。


「はは、妬いてんの?それよりさ、いいの?」


 レイの攻撃を素早くかわし、間合いを取った護が、剣で指し示す先には……


「ああ!」


 目を凝らしたユリウスが、気付いて悲鳴を上げて、倒れるエドウィン様と白亜様に転がるようにして走り寄る。


「父上!白亜!」


 泣き出すユリウスの隣で、私は震える手を伸ばした。


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