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君死に給うことなかれ

 

「は、何?バカなの?」

「貴様ほどじゃないし、切実な話だ。魔界の存続が掛かっている」

「それが何で僕のせいなんだよっ」


 護が床を蹴り、横に剣を薙ぐ。レイがそれを黒い剣で受けると、剣先から魔力が伸びて、護の剣に巻き付く。


 一旦下がろうとするが、手首と剣を尋常でない力で縛られて動けない。


「くっ」

「これが勇者の剣だとはな、嗤わせる」


 刀身に血が付いているのを見ながら皮肉げに言ったレイは、体から魔力を幾筋も伸ばして、護の体に巻き付かせ絞め上げた。


 ギリギリと容赦なく力を加える。

 魔力で頭から足の先まで体が覆われて見えない程で、そのまま宙に持ち上げられる。普通の人間なら、骨が折れて内臓も損傷し窒息している状況だ。


「…………そういえば君…結婚したんだって?」


 魔力の隙間から、何事も無いかのように声が降ってきて、レイは舌打ちした。


「……面倒な」

「さっきの話、奥さんのことだよね?え、彼女美人?子供がどうとか言ってたけど、そんなに欲しいんなら側妃置いたらいいじゃん、魔王なんだし」

「ダメ、絶対」


 なんて恐ろしい……そんなことをすれば、首輪を付けられて一生レティの足を舐めるしかないじゃないか。


「首輪……いや悪くはないな」

「なに?まあいいや。その子聖女だそうだけど、魔王に気に入られちゃうなんて、なんかエロ」

「か、考えたら確かに、はあはあ、そうかも」

「何息荒げてんの。いいな、その子見てみたいな。可愛かったら僕もらうよ」


「ダメ、絶対。ダメ、絶対。ダメ、絶対。ダメ、絶対」


 怒って壊れたレイ。彼の魔力が雑巾でも絞るかのように、護の体を捻ってくびり殺そうとする。


「剣よ、来い」


 護が呼ぶと、床に転がっていた剣が生き物のように動き、宙に浮いて護を捕らえる魔力を切り裂いた。

 自由になった護が床に着地すると、その体にはダメージは無いようでケロッとしている。


「この剣は、僕を勇者と認めて僕の意思で動くんだ」

「見る目の無い悪趣味な剣だ」


 聞いているのかどうか、護はうっとりと微笑んだ。


「いいね、この世界。まるで僕の為にあるようじゃないか」

「反乱起きてるがな」

「チートで勇者で世界征服して、おまけにたくさん殺しても誰も何も言わない。立ち位置はこっちが正義だから、魔王殺したら英雄だし」

「全く、なぜ魔王が悪だと思われるのか不思議だ」


 本当の悪魔は、こいつじゃないのか?そりゃちょっぴり自分は悪魔かもしれないが。


 階段を下りてくる足音が聞こえて、護は平気でそちらを見て隙を作った。

 それを逃さず、レイの剣が煌めき、護に迫る。


 難なくそれを避けると、護が剣を突き出す。跳びすさって直後に、レイが足で剣を跳ね上げた。


「ネーヴェ、ちゃんと魔王を連れ出して来たね、偉い偉い」


 階段を下りきったネーヴェが、焦りを滲ませ問いかける。


「約束です。魔王を連れて来る代わりに、エドウィン様と白亜を自由にすると、そう君は言った」

「あ、途中でユリウスに会わなかった?逃がしたの?」

「……護!二人は?」


 レイの剣を受け止めたが、直ぐに魔力で首を絞められたにも関わらず、護はへらっとしている。


「あー、ごめん。逃げようとして僕を怒らせるもんだから、ほら」


 護の視線を追ったネーヴェが、がくりと膝を付いた。


「あ、ああ……」

「殺しちゃったかな。一足遅かったね、残念」


 切り結ぶ護とレイのいる所より、更に部屋の奥。

 隅の暗がりに、倒れたエドウィンと白亜の体があった。

 打ち捨てられたように床に伏せる白亜を、エドウィンが守るようにその体で覆っていた。


 石の床に血の花びらを散らせ、後ろから抱き締められるかのようにして目を閉じる白亜を見て、ネーヴェは蹲って涙を流した。


 凄惨な光景なのに、どうしてだか美しいと思う自分は、きっと心が壊れてしまったのだろう。二人の安らかな表情を見てよかったと思うのは、自分がそう思いたい為だ。

 だって、そうでないと報われない。


「白亜……エドウィン…」


 共にいながら、二人を見守ることしかできなかった。救えなかったが、常に幸せを祈っていた。


 それなのに……


「すまない、すまない……」


 慟哭し、そう繰り返すネーヴェに、護は首を傾げた。


「今謝っても遅いんじゃないの?」


 言ってる側から、身を屈めたレイが、護の足を剣で斬りつけた。


「っ、て!」


 ぶわっと血が散って、護が傷ついた足を押さえた。


「取り敢えず、貴様は痛みを知れ」


 剣の血を薙ぎ払い、レイは不快げに護を睨んだ。

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