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君が愛した悪魔の僕は4

 

「まも、る」

「真白、君の考えることなんて僕には筒抜けなんだよ」


 ゆったりとした仕草で三人を見る護の前に、白亜の術で作られた透明な壁が出現した。


「エドウィン!ユリウスと逃げて!」


 壁を挟んで護に対峙する白亜を、エドウィンは言葉もなく見ていた。


「早く!」


 護が勇者の剣を抜いた。ヒュッと風を切る音と共に壁まで砕かれる。


「何やってんの、僕には効かないっつうの」


 白亜が狭い階段をその身で遮るようにして、拘束の術を護に掛ける。


「父上!」


 ユリウスがエドウィンの手を引き、階段の上へと導こうとした。


「ああ、その子が」


 護がユリウスを見て笑うのを見て、戦慄を覚えた時には白亜は地に伏せていた。


「あ!」

「真白、まさか僕に刃向かうの?」


 横腹を蹴られて身を折りながら、白亜は再び壁を作った。


「エドウィンっ、いっ、て」

「何勝手なことしてんの?君は僕をこっちへ呼び寄せた責任取ってくんなきゃ」


 痛みに顔を歪めながらも、白亜は告げた。


「もうあなたの言いなりにはならない」


 きっかけは、護と再び会ったこと。彼の拒否は、今まで夢の中をさ迷うようだった彼女の目を覚ましてくれた。

 心を支配下に置かれていた白亜は、現実と向き合ってようやく美化された護との記憶から決別したのだ。


 世界が急に鮮明に見え、そして見ようとしなかったものに気付き、向き合うことができた。


 贖罪の為にできることは……


 倒れている彼女を一瞥すると、護はユリウスを捕まえようと階段を上がろうとした。

 その足を両手で掴み、離さないように抱き締めた。


「何やってんだよ!放せ!」

「そうよ。これは私が起こしたこと……」


 もう片方の足の踵が、白亜の額を蹴る。


「止めろ!」


 ユリウスを後ろにしてエドウィンが叫んだ。


「いいの。自分の罪は償う。護……私があなたを止める」


 額から血を流しながら、詠唱を唱える彼女は、不思議と安らかだった。まるで歌っているかのようだった。


「ユリウス、一人で行きなさい」

「父上?」


 護に剣を取り上げられた自分には何もできない。でも、それでもできることがあるとするなら……


「どうか無事で」

「父上!白亜!」

「命令だ!行くんだ!」


 強引に息子を階上へ押しやり、走り出すのを見届け、エドウィンは何度も護を拘束しようとする白亜の元へと近付いた。

 今まさに彼女の腕に突き立てられようとする勇者の剣に、彼はその身を差し出した。


「ぐあああっ!!」

「エドウィン!」


 彼女の背に被さるようにして、肩から血を迸らせたエドウィンが苦痛に呻いた。


「はん?バカなの?」


 せせら笑う護の声も耳に入らず、白亜は叫んだ。


「どうして!?」


 二人の為なら犠牲になっても構わなかったのに。なぜエドウィンが自分の為に傷つかないといけないのか。


 背中で微かに笑い声がした。


「どうしてって……好きな女の傍にいる……ずっとしてきたことだ」

「エドウィン……っ」


 震える声で名を呼ぶ真白の、細い背中と揺れる髪を目に焼き付けてから、肩に刺さったままの剣を素手で掴み、エドウィンは護を見上げた。


「もう貴様の好きにはさせない」


 例えここで死んでも。


「………なにドラマ気取ってんの」


 首を傾げた護は、笑みを消して不機嫌さを露にした。


「その正義漢面、いちいちムカつくんだよね」



 ***********


「やった、結界が消えた!」


 翡翠が示した通り、魔道具を見つけ取り外すと、外部からの侵入者からアテナリアを守っていた結界は消えた。


 すると待っていたかのように、城壁の内部からの攻撃にあった。


「あ、あんた、カイン!」


 前回の勇者パーティーで仲間だった神官を見つけ、橙が声を上げた。


「何妨害して、あっ」


 いきなり体力減退を掛けられて、へたりと膝をつく。


「僕だってこんなこと……だが、エドウィン陛下が人質になっているんだ。だから」

「あんた……意外だわ」


 国の中枢で権力を握りたいだけかと思っていたが、国王の身を案ずるとは。


 困った表情で、カインは唇を噛んだ。


「仕えるなら、エドウィン様がいい」

「…………そう」


 周りを見れば、こちらに攻撃してくる者達に見知った面々がたくさんいた。皆、人質になっている家族やカインのように王や白亜を守る為に必死なのだ。


 こんなの、同士討ちと変わらない。


 彼らを傷付けることはできない。

 せいぜい拘束の術を使うかして……


「なあ、あんた」

「ひえ?!」


 背後から、いきなり上級魔族の男性が声を掛けてきて、橙はびくっと驚いた。(怯えた)


「なあ、人質はどこにいるんだ?」

「へ?」

「だから、まず人質を解放したら、こいつらも安心して攻撃しなくなるだろうし、あんた達も安心するだろ?」


 兜から出ている三角狐耳に目がつい向くのを抑えて橙は頷いた。


「私が案内するわ!」


 すかさず翡翠が声を張り上げ、上級魔族達が彼女の方を見た。


「では、二手に分けましょう。このまま侵入を試みる隊とは別に人質を解放する隊を募ります」


 ギルの呼び掛けに、皆が各々動き出した。


「あなた達も人質を救出に行きませんか?」


 ギルの問いかけに、攻撃をしていたカイン達が動きを止めた。


「え……」


 城壁の上にいる彼らを見上げギルは彼らの反応を待った。


「そうすれば、何も問題ないでしょう?」

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