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君はペット


「はーい、脱ぎ脱ぎしまちょうね。あ、こら暴れない!」

「ギャウ、ワン!!」


 下半身を隠す布を私は引っ張り、クロはそれを押さえて抵抗した。


「もう!臭いからキレイにしよっ?」


 お風呂嫌いなのかな?


 グイッと力を込めると、小さな手から布が離れた。


「ん、あれ?……………オスか」


 固まったクロの下半身をしげしげと確認して、がっかり。

 女の子が良かった。可愛いかったから、まさか男の子だとは思わなかったな。


「……ちぇっ」

「キュウン」


 後ろを向いて項垂れたクロの脇に、気を取り直し手を差し込むと抱き上げた。

 お風呂場の低い椅子に座らせて、クロの頭を洗髪剤でガシガシ洗う。

 それから、スポンジを手に取り、体を念入りに洗う。


「ギャ!?ギャオン!ワオ、ギャオン!」


 大人しくなっていたのに、私がお尻とかその前の可愛いのとか洗い出すと、急に驚いたように暴れだした。


「はいはい、ごめんね。くすぐったいかな?」


 泡を飛び散らせて抵抗するから、私も髪から服から泡だらけだ。

 でも力は私が上だから、何とか全て隅々まで洗い終えた。丁寧に尻尾を毛先まで洗い、最後に顔を優しく洗って湯を流したら、本当に一皮剥けたみたいに、すっきりキレイになった。

 クロの長い睫毛や潤んだ瞳やリンゴのような赤いほっぺたも、よく見えるようになって、ますます可愛さが増した。


「可愛いぃ、マイペット」


 歯をギリギリ噛み締めて、小刻みに震えてるから寒いのかな?

 小さく唸るクロを湯船に浸ける。


「グルル……キャウン?!!」


 小さいから溺れたら大変。びしょびしょになった服を急いで脱いで、私もお風呂に浸かった。


「ああ、あったか」

「………………………」

「ん?どうしたの?」


 目をこれでもかと見開き、クロは湯船の中で立ち竦んでいた。

 そして、まばたきも忘れて私をじっっっっと見ている。


「なあに?おっぱい欲しいの?」


 まだ食事はミルクかな?


 肩まで浸かり、人形のようになったクロを膝に座らせて、後ろから腕を回して支える。


 横向きに座ったクロは、ゆっっくりと慎重に私の胸にほっぺたを寄せてきた。


「ふふ、甘えてくれるの?」


 少しは気を許してくれたのかな?


 既に全身赤くなって、温まったみたいで良かった。


 しばらくお互いにじっとしていたら、私の頬から滴が垂れた。


「あ、れ?」


 ポタリ、ポタリと胸を伝うそれが、クロの頬に到達した。気付いたクロが、不思議そうに顔を上げる前に、私は彼の頭に顔を伏せた。


 今まで抑えていたものが、滴になって私の目から流れ出ていく。


「…うう、ふう、ぐす」

「……グルゥ」

「えぇん、うわああん」

「………………」


 どうしようどうしよう

 私、私、逃げた、皆の期待から、今までの10年から、友達や先生から、聖女の義務や使命から

 裏切っちゃった、嫌われちゃった、信用を失っちゃった、きっと軽蔑されてる


「……ふああ、えぐっ、最低だあ、わだしっ」


 クロの髪を更に私の液体で濡らしながら、きゅっと抱き締める。


「ええん、くろ…くろぉ」

「……ウ…グル」

「せ、責任もって飼うからぁ、だからずっと一緒にいて、ね?うわああん」

「ワ…ワウン?」


 クロが首を横に振ったのは気のせいに違いない。

 きつく抱き締めると、私の胸に嵌まったクロは、満足そうに頬擦りしてきたんだもの。


 きっと私を飼い主と認めてくれたんだ、こんなに嬉しそうに甘えてくれて、私も嬉しい。


「う、ひっく、仲良くしようね、クロ」

「ヘッヘッヘッヘ」


 息が荒いな。ゆでダコみたいになってるから、のぼせたのかな?



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