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◇ヘンゼルとグレーテル◆

 この世にはわるいひとがいっぱいいるのよ!

 このあいだ、わたしたちにへんな薬をふりかけてきた黒髪のあのひとだってそうよ。

 あのひとを殺しそこねてから、ヘンゼルが帰ってこないもの。

 きっとあのひとたちが殺したんだわ。

 わるいひとよ、わるいひとよ、わるいひとよ、わるいひとよ。

 ユルセナイワ、ユルセナイワ、ユルセナイワ、ユルセナイワ‼

 だってそうでしょ、わたしたちがなにもわるくないなら、ワルイノハアノヒトタチノホウヨ!


 そう、だからきっとね、こんどこそちゃんとやっつけるのよ。

 わるいひとは、セイギノミカタに、せいばいされなきゃいけないんだからね!

 だからわたし、きちんとコロスからね! マッテテねヘンゼル!


 ……。


 そこは港のはずれにある倉庫で、俺はひしひしと嫌な予感を感じていた。

 いやさ、海がぶくぶくいってるのはなんだ?

 あきらかにそこになんかあるよな?

 ……とか、思ってたらやっぱ、海の中からざばざば音をたててばかでかい海藻がでてきやがった。


「うぉお……植物ってか、それ植物か?」

 俺があっけにとられていると、横でレニがいやいやそうに言った。

「うわっ、最悪! 生臭くなるじゃない!」

「そっちか!」

 生臭いとかそういう問題じゃあねーだろ! とつっこんだところで意味はない。

 とにかくまずはこの海藻をなんとかしないと。

「っていうわけでこのぬるぬるしてて臭そうなやつはアズサに任せるから!」

「はぁ⁉ 一人でつっこむ気かレニ!」

「あたしはへーき、まっかせてーっ!」

 ぱっと消えてしまったレニの姿。


「いや! おまえの心配じゃねーよ‼ ガキのほう‼」

 俺の叫び声だけがむなしく響く閑散とした港。

 レニはなにかと加減ってものを知らない。

 最悪ガキの腕か足が二、三本はバキッといくんじゃねーかと、俺は気が気でなかった。

 とにかく急いでそこの海藻ぶっとばして追いつかなければ。


 ……。

 …………。


 薄い紫色の長い髪に紫の瞳を持つ少女、グレーテルの居る倉庫のなかは植物で埋もれていた。

「かならず殺さなきゃ、そうすればヘンゼルも帰ってくるのよ、そうよ、そうに決まってるわ」

 死んでいると思いながら、彼女は帰ってくるはずだと矛盾したことを呟く。

「誰がよ」

「きゃぁっ」

 突然背後にあらわれて、グレーテルの腕を掴んだ女に驚いて悲鳴をあげる。

「な、なにをするのよっ! はなして! はなしてよっ! さわらないで! ワルモノ!」

「いーからおとなしくしてなさいっての! アンタ死罪になりたいわけ⁉」


 しかしグレーテルはレニに抵抗して叫ぶ。

「いやっ! いやいやいやいやいやっ! 助けてみんな!」

 そのとたん、どかんと音がして倉庫内の植物が異常化しはじめる。

「あーっもう! やっぱこーなんのね! しようのないやつ! アズサに準備してもらっといてせーかいだったわ!」

 グレーテルから離れると、レニはナイフにアズサお手製の除草剤を塗って植物たちに切りかかっていく。

 このあいだのより改良した、とアズサは言っていたが、おっしゃるとおりで、つぎつぎに植物たちが異音をたてて枯れていく。


「い、いたいっ! いたいいたいたい! やめて! やめてよっ!」

「やめてほしいんならあんたがこれを自分で止めなさいよ!」

「ダメよ! あなたたちを殺してヘンゼルを返してもらうんだから!」

「殺さなくても! あんたがおとなしくしてりゃあ会わせてやるっての‼」

 ぴたっと植物の動きが止まった。

「え、ほんとう?」

「本当よ、これは嘘じゃないからおとなしく――」

 銃声が響いた。

 グレーテルの頬を掠めた銃弾は壁にあたり、レニは倉庫の奥から出てきた黒服の男たちに唾を吐き捨てんばかりに表情をゆがめた。


 そのなかのリーダー格らしき男が口を開く。

「よぶんなことをしてもらっては困るなぁ、コレは質のいい道具でねえ、できればもう一人も返してもらえたいんだが?」

「……あたしにそんなオモチャが通用するとでも?」

「きみには通用しないかもしれないが、彼女にはどうかな?」

「――ごめんなさいレニ」

 銃口をつきつけられたのはアンナで、レニは舌打ちをした。

「オーケー、そっちの要求はなにかしら」

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