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◇魔女の世界◆

 ◇外伝:魔女の世界「アンナ」◆


 わたくしは生まれたときからおかしなものを見る子供でしたわ。

 死者の霊、この世にあらざる者、他人の未来、過去、死期、思考、感情。

 そして自分の未来。


 幼いわたくしは、こんなにも優しい両親に忌み嫌われて、暴力をふるわれ、両足が動かなくなってしまう未来を見て、恐ろしくなって、自分の見たものを隠し続けましたの。

 隠していれば、お母様にもお父様にも、分かるはずないでしょう?


 けれど、しょせんは子供のすることですわ。

 母も父も、わたくしにそんなことするなんて、思えなくて……つい、話してしまいましたの。

 今日は中央通りで事故があるから、そこへは行かないでくださいませと。

 そこへ行ったお父様が、亡くなる未来を見ましたの。


 両親は半信半疑でしたわ、それでも、行かないでいてくださいましたの。

 それをわたくし、馬鹿みたいに、喜びましたのよ。

 だけど――……両親は、わたくしが能力者だと気づいてしまいましたの。

 わたくしの首の裏側にある目の形をした痣、いつあらわれたのか分からないそれを見て、両親がわたくしを見る目は変わりました。


 暴力のすえに、わたくしは、本当に、足が動かなくなってしまいました。

 自分の見た未来のままになってしまいましたのよ。

 そのままなら、わたくしきっと、もうここにはおりませんわね。

 足が動かなくなった翌日には、黒服のかたがたがいらっしゃいましたの。


 わたくしを買い取るとおっしゃって、そのまま、ここへ連れてこられましたのよ。

 この時のわたくしは、自分が世界で一番不幸だなんて、ばかなこと思っていましたの。

 この世に、わたくしよりつらい思いをしたひとなんて、いないわって。


『きみのその両足も、治すことはできるよ。どうする?』

 医者のウィリアムだと名乗った男性にそう聞かれて、わたくしは警戒しましたわ。

 だって、能力で治すだなんて、後遺症が残ったらどうしますの?

 気持ち悪いですわ!

『結構ですわ』

 それだけ言うと、彼は不思議そうにしていたわ。


 だけどわたくしはそれどころではなくて、一瞬、走馬灯のように見えてしまいましたのよ。

 このひとの過去が。

 グロテスクな映像に、わたくしは吐いてしまいましたの。

 その時、あぁまた軽蔑されると思いましたわ。


 心や過去を覗かれるなんて、気分のいいひとがいるはずないんですもの!


『あぁ、大丈夫かい? すまない、私のせいだね』

 けれどウィリアムは怒るでもなく、私の背中をさすったあと、ひとを呼びましたの。

 それは、わたくしにとって驚くべき経験でしたわ。

 このひとが私を軽蔑しなかったことも――、こんな過去を持っているひとがいることも。


 わたくしは考えをすこしだけあらためました。

『アンナ、能力は制御できるようになるよ。それまでは、補助輪のようなものだけど、能力を補佐する腕輪をつけてもらってはどうだろう』

 ウィリアムの提案はわたくしにとって喜ぶべきもので、すぐにそれをいただきました。

 それから、わたくしは見たくもないものを見ることはなくなって。

 けれど、何もせずに車椅子に座って、みんなを眺めているのがだんだん歯がゆくなってきましたの。

 とはいえ、能力で足を治してもらうなんて気持ち悪いですし。

 問題ないという未来は見えていても、抵抗感がぬぐえませんでしたの。


 あらでもそういえば、わたくしの能力って、座ったままでもなんとでもなりますわね。

 そう気づいて、わたくしは仕事をしたいと上層部に訴えました。


 それから、わたくしに与えられた仕事は膨大な量。

 いやでも能力の扱いがうまくなるというものですわ!

 わたくしが加入して、怪我人や死者が減ったと聞いて、とてもうれしく思いましたの。


 けれどわたくしはどこかで、まだ両親へのわだかまりを残したままでした。

 いけないと思いながら、わたくし、ついつい両親のことを覗いてしまいましたのよ。

 そうしたら、そのとき、初めて知ったのですけれど。

 ひとの思考は複数の層にわかれていて、両親はたしかに、わたくしを愛してくれてもいましたのよ。

 もちろん、憎んで、軽蔑してもおりましたわ。


 それを知った時、わたくしはとても嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて――。



『アンナ、本当に足を治さなくていいのかい?』

『ええ、結構ですわ。わたくし、このままでいいんですの』

 両親がどう思っていようとも、それがつらいことであろうとも。


 この足は、わたくしと両親の、限られた思い出のひとつですのよ。

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