狂愛の果ての
記憶にない和風の茶色い木の天井に違和感を感じた。アオくんったらまた、私になんにも言わないで引越ししちゃったのね?ほんと、朝起きた時にびっくりするんだから辞めてほしいわ!!
ゆっくりと起き上がると今度は手足に違和感を感じる。慣れ親しんだあの、肌に触れる部分にはアオくんがフワフワのタオルで包んでくれたキラキラ光る手枷と足枷が見当たらない。アオくんが物忘れだなんて珍しい。
いつもなら扉以外に出口のない部屋を私にくれるアオくんが珍しく窓のある部屋を私にくれたようで、爽やかな風が吹き込んできた。あぁ、アオくん窓が開けっ放しじゃない!!外から人が入ってくるかも知れないのに。全くアオくんったら、窓の有る部屋なんて要らないのに。
それに、この部屋はアオくんの好みじゃない。もしかしたら、引越し中で休憩してる時に目が覚めちゃったのかな?真っ白い部屋に薄桃色と白のお姫様みたいな可愛い家具をアカネが使ってるのを見るのが好きってアオくんは言ってたから多分そうよ。この部屋はアオくんの趣味じゃないもの。
「おはよう茜。久しぶりだね?痛い所はないかな?」
幼い頃から慣れ親しんだ兄様の声が聞こえた。どうやらアオくんは久々に兄様を連れて来てくれたみたい!!アオくんったら、行事の時しか兄様に合わせてくれないのよ?今月は私の誕生日もお正月も無いはずだけど…もしかして訃報かな?
「兄様!!お久しぶりですわ!」
兄様は私が手枷と足枷をつけてる事は知らないからその事は聞きません。アオくんにアカネと僕だけの秘密だよって教わりました。
「葵様が見当たりませんの。ご存知なくて?」
本当はアオくんが側に居ないのが不安でたまらない。小さな子みたいに泣きじゃくって探し回りたい程にはアオくんが居ないのが苦痛なのだ。アオくんが居ないと呼吸する事さえ難しい。
「葵は…もう茜とは会わないよ。茜は今日から兄様と母様と暮らすんだよ。」
私はもうアオくんのお嫁さんなのに?結婚式も挙げたし、婚姻届も市役所に出しに行ったよ?夫婦は同じ家で暮らすんだよ?アオくんが居ないと生きていけないアカネにアオくん無しで生活させるの?そんなの、おかしいわ。アオくんとアカネは2人で1人なのよ?
「葵様は?早く、家に帰してください。葵様が居ないと私…」
「いい?葵は疲れちゃったんだ。アカネには会わせられない。」
嫌だ、アオくんがそんな事するはずない。小さな時から何よりも私を優先してくれて何よりも大切にしてくれた。アオくんは私の何よりも大切な宝物なんだ。ああっ、そっか、アオくんは私が我が儘ばっかり言うから疲れちゃって休んでるのね?じゃあ、次は私がアオくんを監禁してあげる!!そうすればアオくんもきっと元気になって…
アオくんは本当に疲れてたみたい。私がアオくんを探し出すとアオくんはイヤイヤをするのでとりあえず持ってたスタンガンで眠らせて2人っきりの愛の巣に迎えた。アオくんはアカネを鳥籠に入れておくのに疲れたみたいだから今度はアカネがアオくんを鳥籠に入れてあげるね?大丈夫。アオくんみたいに完璧に閉じ込めて上げるね。でも、アオくんはイヤイヤするから、暫くは家族に合わせて上げれないけど大丈夫だよ。アカネが淋しくないようにずっと側にいて上げるね。あっ、お金の事は心配しないで!父様が必要な物は買ってくれるって!!
数日後、元住んでいた国で数年間女に自分自身を監禁する事を強要されていた男が失踪した事をニュースで聞いた。女はとある金持ちの一人娘で同時に消えた事から女が誘拐したのではないかと捜査を進めているようだ。まったく、数奇な事をする女もいるんだね。さぁ、アオくんは今日もイヤイヤしたからご飯を作り直さなくちゃ。折角アオくんのために作ったのに…折角アオくんに似合うだろうって作ったお洋服もご飯もすぐイヤイヤしてぽいしちゃうんだから!!本当にアオくんは困った旦那さんね。