一
なぜこんなことに。
入試がんばったとか、大学に入っても彼氏できないとか、バイトで失敗して辞めちゃおうかと泣き明かしたとか、他人から見て平穏であろうとそれなりに山や谷ある二十年を送ってきたつもりだけどこれは想定外だった。
同じ宇宙なんだかそうでないんだか皆目見当もつかないが地球からいきなりここ惑星アウェスへ放りこまれた。鵜と白鷺のビッグバードに拾われた。古代に大災厄を引き起こしたマレビトなる人々と出現スタイルが似ていたため、双方の安全のため目隠しをされることになった。そして高橋ひばりという私の名前は、偉大なる雲雀さん一族とやらに遠慮して「バリー」などという外国のおっさんみたいな名前(偏見)に変えられることになった。
ここまではまあいい。よくないがいいってことにしないと私、いたたまれない。まさに今、目の前で問題が起きている。
「――しょーちゃんさあ、さすがに一緒に寝るってのはどうかと思うよ」
「妬くな妬くな。バリーはどっちかっていうと俺に懐いてるからな。明日の晩はお前の順番ってことにしてやってもいいけどたぶんバリーは俺と一緒がいいっていうと思うぜ。な?」
「な?」じゃないよ。絶対に嫌だよ拒否だよ拒絶だよ。なんで男の人とベッドインしなきゃならないのか。しかも初対面の男、その上翌日は他の男に順番を譲るなどと言い放つようなやつと。悪い人じゃないっつうかそもそも人でなく鳥っつうかビッグバードっつうか。昭三さん本人は悪いビッグバードじゃないんだけどとにかく、いっしょに寝るのが嫌!
「いや、あのしょーちゃん? 僕はちょっとバリーちゃんといっしょに寝られないっていうか……」
「なんだよ、嫌なのかよ。たっはー、仕方ねえな! じゃあ明日もあさっても俺といっしょに寝ような、バリー」
私は力一杯叫んだ。
「嫌です!」
「なんで? バリー、もしかしておねしょしちゃう癖があるとか?」
「ないわそんなもん!」
「多少寝相が悪いくらい、俺はかまわねえぞ。バリーのちっちゃい足でちょいなちょいな蹴られたぐらいで俺の鍛えられた肉体はびくともしないからな」
そうじゃない。問題はそこじゃないんだ。そしてマッチョアピールいらない。
「寝言か? いびきが気になるのか? 俺は気にしねえ。バリーの声は雛のさえずりだからな。かわいいもんだ」
そういう問題じゃないんだよ!
「しょーちゃん、あのさあ、言いにくいんだけどバリーちゃんっておん」
「俺はよ」
遮るなよ、昭三。話聞けよ。健太さんが今、とても大事なことを言いかけたよ! 健太さんも健太さんだ。最後まではっきりきっちり言ってやれよ、私は女だって。
「俺はよ、店の外、潮の満ち始めた干潟でバリーを見つけた。泥まみれのお前は最初、人には見えなくてそれでもおかしな塊だと掘り出してみたら――」
見つけてくれたのは昭三さんだが、掘り出したあと泥まみれで意識を取り戻さない私をざぱざぱ洗ってシャツを被せてくれたのは健太さんだそうだ。一体全体何が起こったんだかさっぱりなんだが、出現時に全裸だったらしいよ、私。乙女のオールヌードを断りなく目にした健太さんはやはり揚げ白鷺になって私に詫びるべきだと思うんだけども、揚げ油にダイブする前に相方にちゃんと説明しろ。私は女だ。この鵜人間、絶対分かってない。
「マレビトの目を塞がないと何が起きるか分からないからってこんな心細い状況で子どものくせに気丈なのは偉いが」
「子どもじゃありません!」
「俺、心配なんだ。まだ身体も快復していない。それにこの世界の色彩はバリーには鮮やかすぎる。それに現れた時みたいにいきなりバリーがいなくなったりしたら俺――」
「しょーちゃん……!」
おい、そこの白鷺野郎、何を感極まってやがるか。「そんなにバリーちゃんのことを」じゃないんだよ、そして結局一緒のベッドでおねんねってどんな超展開だよ!