ステータスを振ろう
「レベルが上がったからステータスを振ろう」
ステータス。
レベルが上がると一ポイントだけ能力を自由に上げる事ができる。自由と言っても、実際には一点集中とか、一極特化型とか、言われているが、一つの能力だけをとにかく伸ばした方がいいとされていた。
例えば……。
〈魔法使い〉なら魔法の威力が上がる『知識』
〈戦士〉であれば攻撃の威力が上がる『力』
……など。
「俺は殴るから『力』だな」
「私は逃げるから『素早さ』かな?」
アハハッと殴り魔と逃走戦士が仲良く笑いあっている。
【朔那、ごめん。一生その世界にいてくれ……】
弱音を吐かないって決めていたけど、この二人を見ていたら、絶望しか感じない。
【まだ始まって三時間も経ってないよ! 私はお兄ちゃんが気が付くまで一週間も頑張ってたんだからね!】
そうでした。まだたったの三時間の出来事。
きっとこの先の方が茨の道だ。
でも、今日は久しぶりに家族が笑った。それでいい。
俺は朔那を見つけて一日でも早く助け出したくて焦っていたんだと思う。
この一週間の辛かった日々を思い返せば、笑って許せるレベルだ……。
今日のご褒美も兼ねて、提案する。
「では、餅と戯れも慣れたから、次のステップに進もう」
「待ってました~」
「もうボスを倒すのか?」
レベル二でボス……? 一日で朔那を救えると思ってたのかな? こんなんで倒せるんだったら、誰も助けを頼まない……。
会話の節々に尋常じゃない認識の差を感じる。
「次のマップに移動します!」
俺の声を聞いてさっそく一人で次のマップに行った父さんと、なぜか町に引き返した母さん。
逃走戦士!!!
【どんな作戦? どっちに付いて行けばいいの?】
【父さんの方を頼む。隣のマップだ。死ぬなよ!】
次のマップには子豚が出てくるのだが、アクティブモンスターで攻撃しなくても画面に入るだけで次から次へと襲ってくる。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
父さんのテンションが上がった。
朔那だけに任せて大丈夫かな?
俺は母さんの画面を見るために居間のテーブルをグルッと回る。
母さんは父さんの画面を見ながら一緒になって、カチカチカチカチ頑張ってクリックしていた。
逃走戦士の正体はこれか……。
「お父さん、右からも来てるよ! ほら、ここ。あ、今度は下」
父さんのディスプレイを指で押しながら指示を出している。母さんの手が邪魔で逆にやりにくいと思うけど……。
「わかってる。全部見えてる」
あれ……。朔那の援護があるとはいえ、ど素人がデタラメな操作で戦えている。
一体、また一体と〈魔法使い〉がアタックだけで敵を倒していく。
なんとかなりそうかな?
俺が安心して自分の画面に戻ると、朔那からたくさんのチャットが来ていた。
【お父さんを止めて!】
【このままじゃMP回復薬を使いすぎて、すぐに底をつきるって……】
【お兄ちゃん、ヘルプ!】
朔那が本気で回復を頑張って耐えていただけか……。
かと言って、俺のキャラもみんなと同じでレベルは二だ。
「あ……。死んじまった……」
「あらまぁ~。もう少しだったんですがね……」
強引な戦い方で、父さんはレベル三に上がった。
HPを回復する薬を持たない父さんを三分も生かした朔那がすごいな……。
両親は朔那の苦労を知らないだろうが、ゲームは楽しんでやらないと続かない……。
父さんは時計の針が二三時を過ぎているのを確認して言う。
「もうこんな時間か……。今日はシャワーだけにして先に寝る」
普段は二二時には寝るから、時間を忘れて夜更かしをしたことになる。
【さすがにMP回復薬が切れたら、守れないわ……】
朔那は父さんが死んだ直後に前のマップに避難したため生きている。でも、目の前で父さんのお墓が出来上がるというのは、どういう気分だったのだろう。それを阻止したくて、朔那は薬がなくなるまで本気で回復をし続けたんじゃないだろうか?
俺たちにとってこれはゲームで、ゲームで死ぬのなんて、よくあることだ。
考えすぎかな?
【疲れたから、町の宿屋を勝手に使って寝るね】
今夜も朔那は一人で寝るのか……。
夜泣きしていなければいいな。