初戦闘
俺も父さんも居間にデスクトップを移動して家族団欒スペースが完成した。
二人二人の四人掛けのテーブルなので、いつもの食事の位置通り、父さんの隣に母さん。父さんの正面に俺だ。朔那は俺の隣に座っていた。
ついでだから俺も新キャラを作って、家族一丸となって初戦闘をする。
職業によって初期町が違うので、朔那のいた森一までは俺がキャラを移動させて選手交替をした。
「まずはパーティー申請を飛ばすから『許可』してくれ」
俺が経験者だから、俺がリーダーを務める。
申請が届くと画面下にメッセージが出て、それをクリックするだけだ。
「俺が家長として……」
「お父さんはうるさい。黙ってなさい」
「……はい」
父さんと母さんのパワーバランスって逆だったのかな? 今までゆっくりと会話をしてこなかったから知らなかった……。
こんな機会でもなかったら、この先も一緒にゲームをする事はなかっただろう。
まずは動きに慣れてもらいために、お餅で戦いの基礎を学んでもらう……。
「このお餅可愛い!」
女性ユーザー獲得のために可愛いモンスターがいくつかいるが、断トツで可愛いのが、その『餅々スライム』だ。母さんは完全に運営の策略にはまっている。
俺と朔那はこっそり一対一のチャットをしていた。
【お兄ちゃん……。私の目が変なのかな?】
【朔那の目は真実を見ているはずだぞ……】
〈魔法使い〉である父さんが杖でモンスターを殴り、〈戦士〉の母さんが何もせずに見守っている。うん、地獄絵図だ。
職業選択を間違えている気がする。この二人がまともに動けるまで何ヵ月かかるんだ? 果たして、そんな日は本当に来るのか? 親と一緒に朔那を救うとか夢物語だった?
「父さんはキーボードを使って魔法。母さんはとりあえず剣で叩く」
同じ空間にいるから、チャットを使わなくても済む。これはとてもありがたい。
「うおおおおおおおおおおおお」
「キャアアアアアアアアア。可愛い」
二人が俺の話を聞いてくれたなら……。
俺は二人の変貌ぶりにドン引きした。車のハンドルを握ると性格が変わる人がいるとたまに聞くが、ゲームでも同じことが言えたようだ。ゲームは人を変える。
このゲーム、スキルに熟練度があって、使えば使っただけ威力が上がっていく。
ただし、剣のスキルと斧のスキルが別のカテゴリーであるように、剣のスキルの中にも多種多様なスキルが存在する。
しかし、キャラを作った時から全職業、全武器に共通している唯一のスキルが……。
「アタックのスキルレベルが二になったぞ!」
「お父さんすごーい」
ただマウスで敵をクリックして攻撃するスキル。『アタック』である。
父さんの歓喜に本気で拍手を送る母さん。
だが、一言だけ言わせてくれ。
父さんの職業は〈魔法使い〉だからな!!
「よし、俺は殴って戦える〈魔法使い〉を目指す!」
父さんは知ってるのかな? 〈魔法使い〉って殴って戦わないんだよ? どこのサイトの説明を読んだんだろう。
サイトを作った人に文句を言いたい。
【お兄ちゃん……、止めなくていいの? お父さんのスキルレベルが上がっちゃったよ?】
どうやらスキルレベルの上昇が、向こうの世界では視認できるようだ。
隠せないだろうから正直に話す。
【白熱しすぎて、全く俺の話を聞いてくれないんだよ……。助けて欲しい……】
【私の方が状況は辛いと思うけど、お兄ちゃんに同情するわ……】
一応このゲームで殴って戦う〈魔法使い〉の事を〈殴り魔〉という総称が付けられているが、それで本当に活躍できるのは、廃課金プレイヤーだけだ。
つまり、父さんは華々しく散る機会さえない。




