始動初日
父さんの部屋のデスクトップにゲームをインストールしながら、居間ではノーパソを使ってゲームの説明を始める。
どうして父さんの部屋でしないかと言うと……。煙草臭い。居間では吸わない約束になっているため、居間に戻ってくると、ここがとても快適空間だった事に気付く。
煙草の匂い以外にも、このゲームは、ファイル容量が十ギガもある大作で、インストールをするだけでも一時間作業だ。
ファイルはダウンロードすると時間がかかるため、ノーパソに移した時のが消されずに残っていたので、そのまま使った。ゲームサイトのは調べていないけど、サービスが終了しているから、ダウンロードは不可能だろう。
簡単に職業の説明をすると、父さんは「意外と面白そうだな」っと言って、部屋にサイトを読みに戻った。サービス終了してから言うセリフじゃないよ……。っと思ったが乗り気になってくれた事には感謝する。
どうやら父さんは説明書を読み込んでゲームを始めるタイプのようだ。
母さんは「うーん、うーん」っと、腕組みをして悩んだ挙句、父さんが戻ってくる前に結論を出した。
「お母さんは〈戦士〉にしようかな」
「何で?」
「専業主婦だから、朔那と一緒に狩りに行けるじゃない!」
なるほど。後衛同士なら暇だからな……。よく考えていらっしゃる。
職業選択の理由を聞く限り、本当にゲームをした事がないのか不思議に思う。
俺も前衛をやる予定だから。
部屋から意気揚々と戻ってきた父さんが選んだ職業は……。
「よし、俺は〈戦士〉にす……」
「お父さんは〈魔法使い〉ね」
職業説明を読んできた一家の大黒柱を母さんがバッサリ切り捨てた。
父さんは納得がいかないと、猛反発する。
「お母さんが〈魔法使い〉をすればいいじゃないか! 魔女みたいで……さぞ似合うだろう」
「それでは、前衛が帰宅されるまで、朔那は一人寂しく放置されるんですね!」
「あ……、いや。えーっと……」
「父さん、朔那のためだ」
母さんにたじたじの父さんにトドメを刺しておいた。
現状は母さんの方が正論だ。
「わかった……。朔那のためだからな……」
肩を落とした大黒柱がボロボロになって自室に戻って行く。その後ろ姿は寂しそうで、もうゲームをやる上では威厳も何もあったもんじゃない。