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閉鎖された世界

 朔那がいた。

 本人だと決めつけるのはまだ早いけど、朔那がいた。

 どこを探しても誰も手掛かり一つ見つけ出せなかった。

 このチャンスを逃せば、もう二度と機会は訪れないかもしれない。

 震える手で願いを込めながらキーボードを一つずつ押す。カタカタカタッなんて軽快さはない。

 もし偽者なら……、いや、偽者って事はないはずだ。

 キャラを奪って成りすましをするにしてはタイミングが良すぎる。

 頼む。朔那に届いてくれ! 最後にエンターキーを押すのが怖い。

 俺は一対一で会話する機能を使って呼びかける。


【朔那、聞こえるか?】


 あれだけギルド内の廃プレイヤーたちにメッセージを打ち込んでも誰一人ログインをしていなかったのに、朔那には届いた。

【お兄ちゃん!】

 すぐに返事がある。『お兄ちゃん』って返してくれた。間違いない。

【朔那……、やっと見つけた。この一週間どれだけ探したと……】

【ごめんね。勝手にお兄ちゃんのパソコンでゲームをしてたら急に電気が消えて、気が付いたら、この世界に……】

 言われてみると、全て辻褄(つじつま)が合う。

 家から出ていないのだから靴は玄関に置きっぱなしだし、周囲の住民の目撃情報は一切ない。警察の『神隠し』説はほぼ正解だったわけだ。

 それに朔那がこのパソコンを使っていたのに、起動したままになっていなかったのは停電のせい。もしかしてその停電は朔那と関係があるのかも……。

【無事なんだな? 怪我はないか?】

【怪我はないんだけど……。ちょっとレベル上げを手伝って欲しいかな……】

 はっ? レベル上げ?

【帰るために頑張ってるんだけど、どこを探しても(ノン)(プレイヤー)(キャラクター)しかいなくて……】

【朔那が朔那のままでホッとした……】

 何だか急に朔那を感じた気がする。安堵から思わず笑みが溢れた。

【ちょっと! こっちは真剣なんだよ!】

 あぁそうか。喜んでいる場合じゃなかったな。でも、どうしてNPCしかいないんだ?

 辺りを捜索するため、マウスをクリックしキャラを動かす。

 上級者層が買いに来る他の町よりも質のいい薬屋の前。ゲームでは人がよく利用することから、キャラを放置している人や、パーティーを募集している人が多数いる場所だ。それなのに今は誰もいない……。

【朔那は今どこにいるんだ?】

【ルビエラの森(いち)

 最弱モンスターのキュートなお餅が出るところだ。

 丸っこいお餅が転がって移動し、膨らんで攻撃してくる。キャラの操作練習をするようなマップで、攻撃モーションはあるけどダメージはない。

【すぐに行く】

【うん。待ってる】

 俺は転移アイテムで森の手前のルビエラの町に移動する。

 この町は賑やかで必ず誰かが露店を開いて商売をしているはずなのだが……。やっぱり誰もいない。過疎った?

 俺は足を速くするアイテムを使って町を突っ切る。もう一分一秒も待ちたくない。一気に森へ。

 いつもならこの道のりがいくらかかろうが気にしないのに、倍はかかっている気がする。

【着いたぞ】

北東(右上)の方】

 平面のゲームのため、方位が分かりやすいし、回転しないのでゲーム酔いがない。

 しかし、木の裏側を移動できる事から、二Dと三Dの中間に位置する二.(テン)五Dと言われている。

「なにこれ……」

 画面には確かに朔那のキャラがいるのだが、モンスターに囲まれて身動きが取れないでいた。その最大の理由は朔那の職業。

【朔那は馬鹿でした】

【お兄ちゃん。ひどいよ……】

【普通選ばんだろ〈聖職者〉】

 前衛を探してゲームするキャラをやってどうするんだよ! 運動神経があるんだから前衛をやれよ……。


 朔那の服装はレベル一以上が装備する服で〈聖職者〉は黒一色のワンピーススタイルをしている。全く装飾はされておらず、可愛らしさはほぼない。唯一の色の違いは腰にある白帯ぐらい。

 両手で木の枝を持って、何度も振り下ろしているが、どういうわけか、ダメージが出ていない。

【だって……チュートリアルでモンスターと戦ったら、怖すぎて後衛職を選んじゃったんだもん】

 あぁ……。そっか。言われてみるとその通りかもしれない。反論しにくいな……。

 現実で狼十匹に囲まれたら死ぬイメージしか沸かない……。

 それなら誰でもいいから前衛を探してサポートをし続ける方が安全。

 でも、実際に町を探しても、その前衛が見つからなかった。

 だから、可愛いお餅と戯れていたわけか……。

【どうしてノンアクティブモンスターに囲まれてるんだ?】

【こっちだと、お餅同士がどんどんくっついて大きくなってくの……】

 なるほど。だから画面にお餅が集結してるんだ。すごいなきちんとゲームの中と連動している。

【ところで、いつからこのゲームって、こんなに過疎ってるんだ?】

【私がゲームをしてた時は普通に人がいたよ?】

 俺が二週間ぐらい前にした時もいた。たった半月で一気に過疎る意味がわからない。

【携帯で調べるから、ちょっとだけ待っててくれ】

【うん】

 俺はパーティー申請を飛ばしてから、片手間にマウスだけで敵を攻撃していく。スキルを使うにはキーボードを操作する必要があるが、所詮最弱のマップだ。マウスでモンスターをクリックするだけで一掃できる。


 えーっと、なになに? 

『二〇一一年のサービス開始より、多くのお客様にご利用いただきまして、誠にありがとうございました。親会社倒産に伴い、サービスを終了する事になりました。皆様には多大なご迷惑をおかけいたしますことを深くおわび申し上げます』

 俺……お知らせを読まずにログインに挑戦してたから、三十秒待っても接続が完了しなかったのか……。

 でも、なんで俺だけログインできたんだ?

 朔那を救うため……?

【朔那……】

【なに?】

 残酷な事だが、真実を教える。

【他に援軍はいないようだ。ゲーム会社が倒産していた】

 倒産の話がなくても、誰もいない閉鎖された世界だった事には変わらない。

【お兄ちゃん。私の事は忘れて受験勉強を頑張ってね】

【わかった。そうさせてもらう】

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