150円のクリスマス
日本では真白な雪が降りました。
何の汚れも知らないそれは夜まで降り続いて、気付けば街をすっかりと白色に染めています。
時計台の下で彼女を待つ太郎君は、その凍える身体の芯から出る白い息を景色と合せたりして楽しんでいました。彼女が十分も遅刻している事なんて、すっかり忘れている様子です。
太郎君と彼女にとって今日は二人で過ごす初めてのクリスマスでした。太郎君は今宵こそはと張り切って、これからの予定を頭の中で延々と繰り返しながら、上機嫌で彼女を待っています。
街と夜の星空は何時しか同化して、街のイルミネーションはまるで天高くまで昇る滝の様です。
太郎君はその光のひとつが街頭テレビだという事に気が付きました。
『〇〇国での戦争は未だに収拾出来ていません』
イルミネーションの中にポツンと、廃墟の映像が映し出されました。
『この戦争による○○国の犠牲者は既に五千人を超えていて…』
ふと、廃墟の映像が一転して○○国に住む子供達の顔が現れました。
『家は空襲で焼かれて、食物がないの』
子供達の顔は見るからにやせ細り、来ている服は煤で汚れて、腕に至っては今にもぽきりと折れてしまいそうな程の細さです。
「下品だ」
何時もは頬を涙で濡らす太郎君ですが、今日に限って彼らの姿を見た時にそう思ってしまいました。勿論、太郎君も可哀想だな、とは十分に思っています。
ただ、何故かそれが作り話の事の様に思えてならなかったのです。
もしくは、自分には全く関係の無い世界だ。そう思ったのです。
「お待たせ」
太郎君の背中越しに、彼女の暖かい手が太郎君を包んで来ました。太郎君はテレビから目を逸らすかの様に彼女の方へと振り返りました。悲しい事に、太郎君の視線が再びテレビに向く事はありませんでした。
その後、太郎君達がしばらく歩いていると駅前で募金集めをする人達がいました。
『○○国の子供達を救おう』
それを見た彼女は募金をしよう、と太郎君に歩み寄りました。
太郎君は財布から適当に小銭を二枚取り出して、箱の中にぽいと投げ入れました。
「ありがとうございました!」
太郎君達は満足して、夜のイルミネーションの中へと消えて行きました。
現実に、世界には安い命が数多くあります。
二枚の小銭で救える命も当然あります。
ですが、それで満足気な気分になるのは大間違いです。
世界はまだ、ひとつには成れません。