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そこで僕の意識は、一度途切れる。
何を見たのか、よく思い出せない。
思い出そうとする度、頭が割れそうになる。
思い出してはいけないと、何かが邪魔をする。
思い出す事など何もないと、誰かが告げる。
しかし、1つだけ覚えている事がある。
忘れたくても、忘れられない光景がある。
赤、だ。
一面の赤。赤く濡れた壁、地面、僕の手、そして──
──男の、死体。
彼女は笑う。優しく、愛らしく微笑む。そして、軽く柔らかな声で、囁いたのだ。
「……これが、君の観たかったもの。そうでしょう? 君は、観たかったんだ。私が、人を殺すところを」