37 珍種妖精、ダンジョンに潜る(その3)
ダンジョン10階。
はいはい、前の階に続いてまたオークだね。
次々と襲ってくるオークの集団を蹴散らしてどんどん進む。
それにしても、オークの豚面ばかり見てると気が滅入るね。
サクサク進もう。
索敵ウィンドウに従って赤い点滅が集中している部屋の前まで来ると、10代半ばくらいの若い冒険者の集団がいた。
「うぉっ、妖精がいる。」
集団にいた一人がオレに気付いて声を上げた。
その声に冒険者の集団の全員がこちらを見た。
「何で、妖精がこんなとこに?」
「使役妖精でしょ?」
「使役してる冒険者はどこにいるんだよ?」
冒険者たちがそれぞれ疑問を口にした。
あの、オレも冒険者なんだけど・・・。
そう思っていると、冒険者の一人が「俺その妖精のこと知ってる」と言った。
「その妖精ってブラックカード冒険者らしいぞ。」
ブラックカード冒険者???ってな具合にみんなブラックカード冒険者がなんたるかは知らないようだ。
「よくわかんねぇけど、なんかすっごい強いらしい。」
オレのこと知っていると言った冒険者がそう言うと、他の冒険者は「うそだ~」等と冗談だと思ってまともに受け取らない。
うん、オレってホントにすっごい強いんだけどね。
プリティーなオレの見た目じゃそんな風には見えないかもしれないけどさ。
「ところで君たちは何でこんなところにいるんだ?」
この部屋をクリアすれば、いよいよ転移石が手に入るっていうのにさ。
「中にオークキングがいるんだよ。」
気の強そうな少年が苛立たしげにそう言った。
え?だから何?
オレが不思議そうにしていると、気の強そうな少年が「何も知らねぇんだな」と言って説明してくれた。
この10階のボス部屋は通常はオークジェネラルをボスとして、以下オークリーダーとオークがいる。
数は多いが、初級冒険者のパーティーが3つほど組めば何とか撃破できる。
この『タルタロス』ダンジョンの1階層から10階層までの魔物は10分から15分程度でリポップされる(ちなみにここのダンジョンは10階層毎にリポップ時間が違ってくるそうだ)のだが、ボス部屋に関してはその中で稀に強いボスが発生するのだそうだ。
特に10階では、30回から40回の間にオークキングが発生すると言われている。
この若い冒険者の集団がちょうどそれに当たってしまったということだった。
「ったく、ついてないぜ。」
気の強そうな少年がそうボヤくと、他の冒険者の少年少女も次々と同意した。
通常のオークジェネラルを想定して知り合いだったこの3パーティーで挑むことにしたそうだ。
3パーティーいる以上転移石も1パーティーに1つ必要だから、この3パーティーで3回ボス戦に挑むことになる。
1回目のボス戦は順調にクリアして転移石も手に入れたのだが、2回目の挑戦でオークキングに当たってしまったらしい。
この3パーティーだけでオークキングを撃破するのは至難の業らしく、少なくともあと2パーティーは仲間に引き入れたいとのことだった。
「あともう少しなのにね・・・。11階からのフィールドダンジョンエリアに行けるようになれば、ダンジョン探索に専念できるのに。」
魔法使いっぽい少女は悔しそうにそう言った。
ん?11階からのフィールドダンジョンエリア??
そう言えばオレ勢いでダンジョン潜ったから、このダンジョンのことについて何も調べてなかったぜ。
あはは。
って笑い事じゃないね。
フィールドダンジョンエリアってことは、この10階までの石壁に囲まれたスタンダードなヤツじゃなくなるってことだよな。
これはもう少しこの少年少女たちに話を聞いみる必要があるようだな。
「11階層からフィールドダンジョンエリアって、ここまでのダンジョンとは違うのか?」
ストレートにそう聞いてみたら、気の強そうな少年に「ホントに何も知らねぇんだな」と呆れたように言われてしまった。
それでもいろいろ説明してくれるんだから、生意気そうな見かけによらずコイツは良いヤツだな。
この生意気な少年は名をデールと言い、現在はランクFの冒険者で剣士なのだそうだ。
そして同じ村出身の同じ年(14歳)の仲間で作ったパーティー『ドラゴンファング』のリーダーだそう。
ちなみに他のメンバーはアラン(斧士)、オイゲン(斥候)、ラウノ(弓士)に紅一点のシーラ(魔法使い)でデールと同じく冒険者ランクFとのこと。
他のパーティーは、この街に来てから意気投合した剣士だけのパーティー『ブラッディソード』でニコラス(15歳)、ステフ(14歳)、サシャ(15歳)、ディルク(14歳)、リベルト(15歳)の5人のランクF冒険者。
ブラッディソードのメンバーはみんな14、5歳には見えないくらい背が高くてムッキムキで正に脳筋って感じだ。
もう一つが、同じ村出身の3人組が2つこの街に来てくっついたパーティー『暁の戦士』でマチルダ(弓士、15歳)、レイフ(魔法使い、14歳)、グレアム(剣士、15歳)、レオ(槍士、15歳)、エリーヌ(短剣士、14歳)、ソフィア(魔法使い、15歳)の6人のランクF冒険者。
(この際中二病チックなパーティー名には触れないでおこう思う。)
何でもこの16人は、この10階層をクリアすればみんなランクEに上がれるそうだ。
そもそも1階から10階までは、ランクG・Fの初級冒険者が経験を積むような場所なんだそう。
ドロップ品等も少なくてダンジョンに潜るだけでは生活ができないから、1階から10階層を潜る初心者冒険者はみんな他のクエストをこなしつつ生活をしている。
3つのパーティーも半年かけてようやくここまできたとのことだ。
11階から20階までは草原やら森やらでできたフィールドダンジョンで、ランクE以上の冒険者が適正とされていて、ようやくここでダンジョンに専念してもなんとか日々暮らしていけるだけのドロップ品や宝物が手に入るようになるんだそうだ。
そして何よりダンジョンの11階から20階層に潜っているということが、この街では一人前の冒険者となった証となるそうだ。
11階から20階層は1階毎がとにかく広いとのこと。
昆虫型と獣型の魔物を中心に、出てくる魔物の種類も数も多くなるそうだ。
だが、その分ドロップ品も数多く稀に高価なものもある。
そして、宝箱が見つかることも多く、宝物を狙うなら1階毎に広いがくまなく探すことが重要だと言われている。
それからこのダンジョンに潜る冒険者の中で11階から20階層に潜っている冒険者の数が一番多く、そうなると冒険者同士の揉め事も多いから注意が必要だ。
1番はマナーを守ること。
マナーと言っても、他のパーティーの戦闘の邪魔をしないことや他のパーティーのドロップ品や宝箱(宝物)を奪わない等のごく単純で当然のことだ。
このような当然のことを守れないやつはクズだとみなされて、冒険者としてはやっていけなくなる。
そうは言っても悪い奴はどこにでもいて、特にダンジョン内では犯罪行為を犯しても記録に残らないため、殺人や強盗を犯すものがいる。
(ダンジョンの外で冒険者がそのような犯罪行為を行えばギルドカードにばっちり記録されてお縄になるんだそうだ。)
そういう犯罪者に出会ってしまったときはとにかく逃げることが1番だという。
他の冒険者がいる場所まで、できればセーフティーエリアに逃げると犯罪者は手を出してこない。
さすがに他の冒険者に見られてまで犯罪を犯すことはないからだそうだ。
セーフティーエリアというのは魔物が入れない安全地帯で、特に広い11階から20階層には1階層毎に何か所かセーフティーエリアがあるとのこと。
休憩場所としても逃げ場所としても、それから冒険者が集まるから情報交換の場所としても、セーフティーエリアは必ず確認する必要があるということだ。
デールを中心に他の子たちもいろいろと教えてくれた。
ダンジョンっていろいとあるんだねぇ。
ドロップ品や宝物を得るだけじゃなく、冒険者間のゴタゴタなんかもあるみたいだし。
11階層に行く前にいろいろ聞けて良かったよ。
よし、みんなにはお駄賃として串肉をあげよう。
「こんなとこで肉の匂いさせたらオークが来るかな?」
みんなに串肉を配り終えてからまずったかなと思いながらそう言うと「よくそれでダンジョンに潜ろうと思ったな」とデールにまた呆れられた。
何でもボス部屋の前には魔物は寄り付かないんだそうだ。
へーそうなんだ。
魔法チートごり押しなもんで、そういうことは何も調べてこなかったんだよ、テヘペロ。
んじゃ、オークキング倒しに行きますか。
「じゃ、もうそろそろ行くわ。」
そう言って部屋に入ろうとすると、みんなギョッとしている。
「な、なに言ってんだよ、オークキングがいるんだぜッ!お前1人で何とかできるわけないだろッ!!」
デールがそう言うと他の子たちもみんな止めとけと言ってくる。
「大丈夫、大丈夫。何せオレはブラックカード冒険者だからな。」
オークキングなんて敵じゃないぜ。
オレはみんなの声をスルーして部屋に入った。
目の前にはオークの集団。
中央には一際デカいオークキングがいる。
「プギィィィーーーッ!」
オークキングが雄叫びを上げる。
「ライトニングニードルッ、ライトニングニードルッ、ライトニングニードルッ」
オレは負けじとライトニングニードルを重ね掛けした。
シュンシュン、シュンシュンと流れ星のように無数のライトニングニードルがオークたちに降り注いだ。
オークが消えた後には一振りの斧があった。
ドロップ品か?
鑑定。
【 鋼の斧 】
鋼の斧ねぇ。
斧なんて使わないけど、とりあえずアイテムボックスにしまっとくか。
後で売ればいいし。
ギィっと少しドアが開くと、少年少女がこちらを恐る恐る覗いていた。
「もう終わったよ。」
少年少女たち、あの小生意気なデールも、戦闘が既に終わりオークがいなくなっているのを見て口をあんぐり開けて呆けている。
わはは、オレの強さを分かってくれたかね。
「じゃ、お先に~」
呆けた少年少女を残してオレはさっさと奥に向かった。
ボス部屋の扉を開けた奥に階段はなく、小部屋になっていた。
小部屋の中央に魔法陣が描かれてあり、その中央に高さ1メートルくらいの円柱の柱が立っている。
その円柱のてっぺんに”試練を乗り越えし者よ、ここに手を触れよ”と書かれていた。
ってことは触ればいいのか?
オレは円柱のてっぺんに触れた。
すると、てっぺんが淡く光りそれが収まると乳白色の丸い石があった。
「これが転移石ってやつか?」
石を手に取るのと同時に、ボス部屋からの扉とは反対側の壁がゴーッと音を立てて開いた。
そこには見渡す限り草原が広がっていた。




