31 珍種妖精、商隊のメンバーと打ち解ける
ヤンセンさんの商隊は馬車2台編成だ。
1台にヤンセンさんと使用人見習いの10代前半の人族の少年が乗り、もう1台には使用人の30代半ばの人族のおっさんと20代半ばのムキムキマッチョな虎の獣人奴隷が乗っている。
奴隷だよ奴隷。
ファンタジーものでお馴染みの奴隷キタよ。
ちなみにオレは前を走るヤンセンさんが乗る馬車に乗せてもらっている。
「あの、だ、大丈夫なんですよね・・・?」
ヤンセンさんが御者台で馬を操りながら心配顔で聞いてきた。
「もちろん。この馬車にも後ろの馬車にも結界張ってあるから大丈夫ですよ。ドラゴンでも襲ってこない限りこの馬車がどうにかなるなんてことはないです。」
オレはデキル男なので出発前に馬車2台とも頑丈なうえに透明な結界を張ってあるのだ。
ちゃんと頑丈にしたからドラゴンくらいの魔物が来ない限り大丈夫。(多分ね)
「それにちゃんと索敵もしてますから。強い魔物が出てきたら退治もしますんで心配しなくても大丈夫ですよ。」
索敵魔法は、オレ中心に2キロメートル範囲で魔物や盗賊がいたら分かるようにって設定したらでけた。
オレの前面にオレにしか見えないウィンドウが出てきて敵が赤点で点滅するようになってる。
これめっちゃ便利やん。
魔物狩りのときにも使えるし、ダンジョン潜った時も使えそう。
おろ?
索敵ウィンドウに赤い点滅が。
馬車から500メートル先に赤点が7つあってフォレストウルフと表示されている。
そうそう、この索敵ウィンドウはオレの鑑定能力とも合わさっているのか敵が何なのかまでちゃんと表示されるんだよね。
超便利。
「ヤンセンさん、この先にフォレストウルフの群れがいます。この結界ならばまったく問題ないんですけど、追って来られても面倒なんで始末してきますね。すぐ終わるんで馬車は止めなくてもいいですよ。」
そう言ってオレは馬車を離れた。
オレはフォレストウルフの近くまで飛んでいってライトニングニードルを放った。
「ライトニングニードル」
オレを目にして唸り声を上げていたフォレストウルフたちがドサっと倒れた。
近くまで来ていたヤンセンさんたちが馬車を止める。
倒れたフォレストウルフを見てヤンセンさんたちが口をあんぐり開けてオレを凝視していた。
とりあえずオレはそれを無視してフォレストウルフをアイテムボックスにしまっていく。
「じゃ、行きましょうか。」
オレが声をかけるとハッとしたようにヤンセンさんが「あぁ」と言って馬車を動かし始めた。
それに続いて後続の馬車も動き始める。
「本当に強かったのですね。」
俺の実力を垣間見てようやく納得がいったのか、ヤンセンさんが安心したようにそう言った。
おっさんがあんだけ説明してたのに、まったく疑りぶかいなぁ。
まぁオレの姿見ちゃうとあんまり責められないんだけどさ。
その後は魔物の出現もなく順調に進んだ。
「暗くなってきましたし、今日はこの辺で野宿しましょう。」
ヤンセンさんがそう言って馬車を止めると、後続の馬車も止まった。
そして道の脇の開けた場所に馬車を移動した。
ヤンセンさんに指示された獣人奴隷が薪を拾い集めに行く。
見習いの少年も近場で薪を拾い集めていた。
獣人奴隷が集めた薪に慣れた手つきで火をつけた。
パチパチと燃え上がる焚き火の周りに座って一同ホッと一息ついた。
「では夕食にしますか。」
見習い少年がいそいそとみんなに水と干し肉とパンを配っていく。
「あ、オレは自分で用意してあるんで大丈夫です。」
今日は何にしようか迷ってから揚げにする。
アイテムボックスからから揚げとパンを取り出すと、ヤンセンさんはじめみんながこっちを凝視している。
あーまぁそうなるか。
「みなさんも食べますか?」
おい、獣人奴隷頷きながら涎たらすなや。
オレはから揚げが盛った皿を人数分出してやった。
「いやぁ、すみませんね。これは冒険者ギルドの食事処で人気だった『から揚げ』ですな。」
ヤンセンさん顔がにやけてるからね。
もう『から揚げ』を知っているとは、さすが商人耳が早いね。
「あそこのマスターにこの『から揚げ』を教えたの実はオレなんですよ。」
そう言ったらヤンセンさんがちょっと驚いている。
「ま、とりあえず食べましょう。」
いただきます。
あーから揚げウマっ。
ヤンセンさんと使用人のおっさんも「美味いですな」と言いながら食っている。
見習いの少年も「美味しい、美味しい」言いながら食っている。
獣人奴隷は無言のままガツガツ食って、最速食い終わって見習い少年のから揚げを物欲しそうに見ていた。
うぉい、奴隷なのに食い過ぎだろ。
まぁ体デカいししょうがないか。
獣人奴隷の前に追加のから揚げをそっと置いてやった。
すると獣人奴隷が尻尾をブンブン振りながら「すまん」と言って、またから揚げをガツガツ食べ始めた。
こやつ『から揚げ』の魅力にはまったな。
そんなこともあって商隊のメンバーとオレはようやく打ち解けた。
ヤンセンさんは油、塩、酢をメインにコショウや砂糖といった調味料類を扱う商人で、ヤンセン商会という店をヴェーメルに構えている。
使用人のヘルマンさんはヤンセンさんの右腕だそうだ。
見習い少年はヘルマンさんの甥っ子でアダン君と言って、まだ12歳なんだそうだ。
12歳と聞いてちょっとびっくりしたけど、この世界では珍しくないみたいだ。
異世界の労働基準法はどうなてるのかね。
12歳で職持ちとは異世界パネェ。
虎の獣人奴隷はエヴァルドと言って元冒険者だそうだ。
何でもクエスト失敗で借金を背負ってそれが元で奴隷落ちしてしまったそう。
そう言えばクエストに失敗すると報酬の2倍~3倍の違約金を支払わなきゃならないってチラっと耳にしたような・・・。
違約金のこと考えると、案外冒険者ってのも大変なのかもしれないな。
まぁオレはチートだからクエスト失敗なんてするはずないんだけどさ。
エヴァルドが言うには、奴隷落ちする冒険者はけっこういるのだそうだ。
「ヤンセン様に拾ってもらって俺は本当に幸運だったけどな。」
エヴァルドはしみじみそう言っていた。
確かにエヴァルドからは悲壮感みたいなものは感じられないし、あの体付きから考えるとちゃんと飯も食わせてもらってるんだろうからな。
「うちとしてもエヴァルドが居てくれて本当に助かっていますよ。うちは扱っている商品がみんな重いですからね。力のあるエヴァルドが居てくれるおかげで積荷も任せられますし。それに元冒険者ですから、店に居るときは警備も担当してもらってます。」
ヤンセンさんがそう言ってたからエヴァルドは奴隷っていうより商会の従業員みたな感じなのかも。
そう言えばエヴァルドはみんなと一緒に食事もとっててそれついてみんな当然みたいな感じだったから、こりゃ完全に従業員扱いだな。
ヘルマンさんもヤンセンさんと同じく「エヴァルドが来てくれて本当に助かりましたよ」と言っている。
何でもメインの商品の油、塩、酢どれも重いからとにかく移動するのが大変なのだそうだ。
馬車に積み込むにしても、馬車から降ろすにしても、店に移動するにしても、倉庫に移動するにしても。
ヤンセンさんも遠い目をして「特に塩がね」と言っている。
店ならば従業員もいるから何とかなるのだが、仕入れ先での積込みになると今回のように限られた人数しかいないから人夫を雇うか自分たちでしなければならないそうだ。
「私はいつ腰がダメになるかと戦々恐々としていたよ。」
ヤンセンさんの実感のこもったその言葉に、ヤンセンさんも苦労してるんだなぁなんて思った。
「それにしても妖精さんのあの魔法は凄いですね。一瞬でフォレストウルフの群れを倒してしまいましたし。」
ヤンセンさんのその言葉に商隊メンバーがそれぞれ頷く。
「俺は元冒険者だがあんな魔法は初めて見た。それにフォレストウルフの群れとなれば普通は4人以上のパーティーで挑むものだ。」
エヴァルトがそう言うとヘルマンさんが「そうなのか?」なんて言っている。
「そう言えば、妖精さんはブラックカード冒険者なのだとギルドマスターが言ってましたね。」
思い出したようにヤンセンさんがそう言うと、ちょうど水を飲んでいたエヴァルドが吹き出しそうになっていた。
「ゴホッゴホッ・・・ブ、ブラックカードですかッ?!」
ヤンセンさんがエヴァルトに「知ってるのか?」と聞くとエヴァルトが頷いた。
「俺も元はランクCの冒険者ですから、話くらいは聞いたことがあります。でも誰もブラックカードなんて見たことないし、都市伝説みたいな感じで語られていましたが。」
エヴァルドってランクCだったんだね。
けっこういいとこまで行ったのに何で奴隷落ちなんてしちゃったのさ。
ってか都市伝説て、ちゃんとブラックカード持ってるよオレ。
「ブラックカード持ちはランクSSSより上の存在だって。ブラックカードを持てるのは正に人外の力を持ったものだけだって聞いてます。」
そのエヴァルドの言葉にエヴァルドを含めた商隊メンバー一同がオレを見た。
「あーエヴァルトの言ったことで大体合ってる。オレの場合は魔法特化の能力でブラックカードもらったんだ。」
ホレとブラックカードの実物をみんなに見せてやった。
エヴァルドの話のおかげでヤンセンさんとヘルマンさんはようやくブラックカードのことを理解してくれたようだし、エヴァルドは「本当にあったんだな」なんて感心しきりだ。
今まで黙っていたアダン君に至っては「妖精さん凄い」って言ってオレをキラキラした目で見てきたよ。
ようやくオレの実力を分かってもらえたようで嬉しいぜ。
「そういうことだから、寝るときも結界張るから見張りとかいらないよ。みんなゆっくり休んでください。」
オレの言葉にそれはありがたいと各々横になった。
オレはもちろん大枚はたいて買った布団で寝たよ。
フカフカでぐっすり眠れたさ。




