16 珍種妖精、おっさんと食事する
「で、何でお主はここにいるんだ?」
ここはギルドマスターであるおっさんの部屋だ。
それと言うのも、ギルドの中で一番静かで良い椅子が置いてあるのはここだろうと思ったからだ。
一仕事終わって腹もいっぱいになったし、昼寝したかったんだけど、その場所がね。
ベットなんてものはないから、椅子で寝ようと思ったんだけど、受付前の椅子は木でできていて硬いから却下。
それに、冒険者がひっきりなしに出入りしてて騒々しくて昼寝どころじゃないし。
だから、静かで良い椅子が置いてありそうなここなのだ。
思ったとおり、革張りのソファーがあるし。
「いや、ここなら静かだし、寝るのによさそうな良い椅子もありそうだと思ったからな。うん、このソファーなら合格だ。」
ソファーの上に乗って弾力を確認する。
布団のふかふか感には程遠いが、木の椅子にねるよりは大分マシである。
「じゃ、お休み~。」
お昼寝タイムだ。
「・・・・・・・・おい」
Zzzzzzzzz
「おい」
Zzzzzzzzz
「おいッ!」
Zzzz
「うるさいなぁ、何?」
まったく人のお昼寝タイムを邪魔しないでほしい。
「何がうるさいだ。当然のようにここで寝るな。馬鹿者。」
何が馬鹿者だよ。
昼寝場所を求めてきたんだから、当然寝るよ。
「あーハイハイ、邪魔しないで静かに寝るから大丈夫だよ。」
おっさんは憮然とした顔しているけど、これだけは言っておかないとな。
「あ、オレのお昼寝タイム邪魔したらホント怒るからな。んじゃ、お休み~。」
□■□
うーん、よく寝た。
部屋を見回すと、おっさんが机に向かって仕事をしてる。
外も暗くなってるからけっこうな時間になってると思うんだけど、まだ仕事してるんだな。
ギルドマスターってのもけっこう大変なんだな。
ここで昼寝させてもらったし、これからここはオレの寝床にもなるんだから(革張りソファーはオレの寝床決定なのである)、お礼の意味も含めておっさんを食事に誘っとくか。
もちろんオレのおごりだぞ。
「おっさん、まだ仕事なんか?」
おっさんが、ん?と書類から顔を上げた。
「ああ、もうそんな時間か。」
おっさん実は仕事熱心なんだな。
まぁ、この部屋使う時は静かにするようにするよ。
「腹も減ったし、飯食いに行こうぜ。今日は結構稼いだからオレのおごりだ。」
おっさんも最初は遠慮していたけど、世話になるからなって言ったら食事に付き合ってくれることになった。
ギルド内の飲み屋兼食事処。
おっさんにはエールとワイルドボアのステーキセット、オレは果実水とワイルドボアのシチューセット。
ワイルドボアのシチューも野菜と一緒にじっくり煮込んであるようで肉もホロホロで美味い。
ここのマスターのスキンヘッドのおっさんは厳つくていかにも冒険者上がりって感じで、料理が上手そうには見えないけどこの味はなかなかやるな。
今度何か作ってもらおう。
そんなことを考えていると、おっさんから声がかかる。
「お主、明日も狩りに行くのか?」
今日十分稼いだし、明日はアレを買いに行くつもりなのだ。
「うーん、ちょっと買いたい物があるから休みだな。」
実は考えてたことがあってだな。
やっぱ、日本人は風呂がないとダメだなってことだ。
日本人だったオレにしてみたら、身体を拭くだけ(ここでは風呂に入るなんて事は王族か貴族くらいしかしないそうだ)ってのが我慢ならない。
やっぱり熱い湯につかりたいのだよ。
それでだな、現在のオレは非常にちっさい(不本意だが)。
だから人用の大きな風呂なんていらないわけで、タライがあれば十分なんじゃなかってことだ。
だからタライを買いたいのだ。
しかも、オレにはアイテムボックスがあるからいつでもどこでも風呂に入れる。
お湯はもちろん魔法でちゃちゃっとね。
早く風呂に入りたいね。
「あ、そうだ。雑貨屋ってどこにあるの?」
多分、タライは雑貨屋あたりに行けばあるだろうが、場所がわからん。
「雑貨屋ならギルドの右隣にあるぞ。」
あ、そうなんだ。
ちなみに左隣は武器屋でお向かいさんが防具屋だそうだ。
冒険者に需要の多い店が冒険者ギルドの近くに集まってるって感じだな。
明日は朝一でタライ買って風呂に入るぞー。
それは置いておいて、いろいろと聞きたいことがあったのだ。
「昨日はゴブリンの巣、今日はオークの巣って殲滅してきたけど、この辺って魔物多いのか?」
ファンタジー小説ではゴブリンとかオークの巣ができるのはめったにない感じ書かれてることが多いのに、オレはもうその2つとも見つけて殲滅しちゃったぞ。
「いや、今年は大発生の年だからな。」
何でもこの辺では約20年毎に魔物が倍以上に増えるんだそうだ。
ちょうど今年がその大発生の年だということだ。
「へぇ、そうなんだ。ってことは冒険者は稼ぎ時?」
そう言えば、ここのギルドって冒険者めっちゃ多いなって思ってたんだよな。
この時期に合わせて冒険者も集まってきってるってことかな。
「そうとも言える。大発生と言っても数が増えるだけで、出るのもせいぜいBランクの魔物まででAランク以上となると滅多にいない。それこそ、Sランクのワイバーンが出たのも100年以上も前のことだからな、危険は比較的少ないと言える。数さえこなせばそこそこ稼げるから、中堅の冒険者のパーティがけっこう集まってきてるな。」
なるほどね。
確かにオークの巣殲滅で数こなしたらけっこうな額になったもんな。
それに中堅のパーティで当たればBランクの魔物ならけっこういける感じではあるし。
てか、やっぱりワイバーンっているんだな。
ちょっと見てみたいかも。
「そのおかげで大発生の年とは言えたいした被害が出ていないのが幸いだ。だが、やかっかいな魔物が出たらお主に頼むことになるかもしれんな。」
稼ぎ時だからみんながんばってるんだね。
オレもがんばっちゃうか、明後日からだけど。
てか、やっかいな魔物って何さ?
聞いてみると、やっかいな魔物とは昆虫型の魔物だそうだ。
単体であれば低ランクの魔物だから狩るのにも全く問題ないのだが、昆虫型のやっかいなところは、昆虫型を見たら間違いなく近くに巣があるからだそうだ。
巣があれば当然多数その魔物がいて、多ければ数千にもなるという。
いくら低ランクと言え、数千ともなれば話は違ってくる。
やっかいと言われる昆虫型の魔物の中でもとりわけやっかいだと言われているのがジャイアントビーというオレくらいの大きさの蜂の魔物だそう。
蜂の魔物だから飛ぶし、毒も持っているそうだ。
個体の毒はそんなに強くなくて刺されても患部が腫れて痺れる程度だそうだが、複数から刺されると命にかかわるということだ。
ジャイアントビーの巣の討伐となれば数千のジャイアントビーを相手にすることになり、複数刺されるものが続出して命を落とすものが必ず出るそうだ。
そういうこともあって、昆虫型の魔物、特にジャイアントビーの討伐依頼は冒険者の間では敬遠されがちなんだそう。
オレくらいの大きさの蜂が数千・・・。
うへぇ、キモイ。
「まぁ、ここ最近この辺でジャイアントビーを見たという話しは聞かぬから大丈夫だろう。」
ジャイアントビーとはお会いしたくないもんね。
って、あれ?これフラグじゃね?